2019 Fiscal Year Research-status Report
胃癌抑制分子αGlcNAcを生合成する糖転移酵素α4GnTの発現制御機構の解明
Project/Area Number |
17K17779
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
小村 仁美 信州大学, 医学部, 特任助教 (30616032)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | αGlcNAc / 糖鎖 / α4GnT / 糖転移酵素 / 発癌 / 分化型胃癌 / 遺伝子発現 / MUC6 |
Outline of Annual Research Achievements |
当研究室で、ピロリ菌から胃粘膜を防御する糖鎖であるαGlcNAcの生合成を担う唯一の糖転移酵素ヒトα4GnTを単離した。A4gnt欠損マウスは、ピロリ菌非存在下でも胃の幽門部に分化型腺癌が発生し、αGlcNAcが、分化型腺癌の発生を抑制することが分かった。A4gnt欠損マウスは、5週齢で過形成、10週齢で軽度異形成、20週齢で高度異形成、30週齢で分化型腺癌が自然発生する。このため、野生型マウスでは、A4gnt欠損マウスで異常が観察される前の胎児期から、α4GnTが発現すると考えられた。よって、TaqManリアルタイムPCR法により、野生型マウスの胎児胃で、α4GnTのmRNA発現量の変化を経時的に調べた。合わせて、αGlcNAcが結合するムチンコアタンパク質MUC6、そして、MUC6と結合し、胃癌との関連が報告されているTFF(Trefoil factor family)2やTFF1に関しても同様の実験を行い、比較、検討した。この結果、α4GnTのmRNA発現はE(embryonic day)13.5から始まり、E19.5にかけてその発現量は急激に増加することが明らかになった。また、MUC6、TFF1、TFF2は、E15.5から発現上昇が見られ、発現量は急激に増加していった。次に、HIK1083抗体によるαGlcNAcの蛍光免疫組織染色を行ったところ、E15.5から胎児胃の腺粘液細胞に強い局在が見られた。また、A4gnt欠損マウスにおけるこれら分子のmRNA発現量が、野生型マウスと比較してどのように変化するかも調べた。この結果、A4gnt欠損マウスでは、野生型マウスと比較して、その発現量が、大幅に減少していた。マウス胎児の胃におけるα4GnTとその関連分子の発現量を経時的に明らかにしたことは、マウスのみならず、ヒトでも同様の機構で発癌が制御されると考えられ、重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
胃癌抑制因子αGlcNAcの生合成に関与する唯一の糖転移酵素α4GnTが、マウスで、いつから発現しているのかは、明らかになっていない。A4gnt欠損マウスは、ピロリ菌非感染で、その胃幽門粘膜では、5週齢で過形成となり、30週齢になると分化型腺癌が自然発生する。よって、野生型マウスでは、A4gnt欠損マウスでこれらの異常が観察される前の胎児期からα4GnTが発現していると考えられた。そこで、TaqManリアルタイムPCR法を用いて、A4gntのmRNA発現レベルを定量的に測定、比較したところ、A4gntのmRNA発現はE13.5から始まり、E19.5にかけてその発現量は増加することが明らかになった。また、αGlcNAcが結合するムコチンコアタンパク質MUC6や、MUC6と結合し、癌との関連が報告されているTFF2や、TFF1についても同様に測定したところ、MUC6、TFF1、TFF2は、E15.5からmRNAの発現上昇が見られ、TFF1とTFF2のmRNA発現量は、E18.5から急激に上昇した。α4GnTと胃癌発症の関係をさらに検討するために、A4gnt欠損マウスで同様の実験を行った。その結果、MUC6、TFF1、TFF2において、mRNA発現量の顕著な減少が観察され、MUC6では、E19.5において約60%の減少が見られた。TFF1とTFF2に至っては、驚くべきことに、約94%ものmRNAの発現減少が見られた。また、胃癌で発現が減少するMUC1に関して、A4gnt欠損マウスでは、約55%のmRNAの発現減少が見られた。このことからも、A4gnt欠損マウスは、胃癌モデルマウスとして有用であることが言える。また、HIK1083抗体によるαGlcNAcの蛍光免疫組織染色も行ったが、E15.5から胎児の腺粘液細胞と思われる部位に強い局在が見られた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、野生型マウス及びA4gnt欠損マウスにおけるαGlcNAc 、MUC6、TFF1、TFF2のmRNAレベルでの経時的な発現量の変化を明らかにし、A4gnt欠損マウスでは、野生型マウスと比較して顕著な発現量が減少することを確認した。このことから、A4gnt欠損マウスの胃の発生段階における異常をより詳細に分析することが重要であると考えた。そのため、MUC6、TFF1、TFF2の分子局在を蛍光免疫染色法により調べ、A4gnt欠損マウスでは、分子局在に変化が見られるか、特に、胃腺癌の発生する幽門部での様子を詳細に観察し、分化型腺癌発生機構の解明の手掛かりとする。具体的には、これら分子の発現している表層粘液細胞や頸部粘液細胞の数や比率、局在はどのように変化しているのか、また、幽門腺に存在するその他の細胞の数や比率、局在に変化があるのかを、各種細胞マーカーとの多重染色により明らかにする。また、ウエスタンブロット法により、MUC6、TFF1、TFF2のタンパク質レベルでの発現量変化も合わせて確認する。 A4gnt欠損マウスの胃では、BrdUの取り込み細胞が、5週齢の段階で、野生型よりも胃の表層側に広がっている。このことから、A4gnt欠損マウスでは、胃の幹細胞の局在が、胎児期からすでに変化している可能性が高く、マウス胃の幹細胞マーカーLgr5(luecine-rich orphan G-protein-coupled receptor 5)を免疫組織染色し、発生期における胃の幹細胞の局在変化とその影響を検討する。 次に、A4gnt欠損マウス作製時のES細胞を用いてES細胞から胚様体を形成し、そこから分化条件を最適化して胃全体への分化能を持つ胃原器を分化させ、三次元培養を行って胃組織を発生させる。この胃を観察し、A4gnt欠損マウスから得られた知見が再現できたかを確認する。
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Causes of Carryover |
令和元年度の研究で次年度使用額が生じた理由であるが、当初予定していたA4gnt遺伝子プロモーターを活性化する転写因子の同定や、胃特異的なヒストン修飾によるα4GnT遺伝子の制御に関する実験を取りやめたため、これらの実験に使用予定であった実験キット、放射性同位体、各種阻害剤等の購入は行わなかったことによる。 また、RNA抽出キットや各種酵素および試薬類、プラスチック製品等は研究室ですでにまとめ買いしていたものを使用することが出来たため、平成31年度に関して、これら消耗品の購入額は当初の見込みよりも執行額が低くなっている。 次年度使用の計画に関しては、蛍光免疫染色で使用する特異抗体で所属研究室にないものを複数購入予定であることと、蛍光二次抗体を動物種ごと、波長ごとで複数種購入予定である。また、各種酵素、プラスチック用品等の消耗品等の購入も検討している。得られた研究成果に関して学会発表を行いたいと考えており、そのための学会参加費、滞在費などもかかる予定である。また、研究成果は論文発表することが決まっており、英文校閲費や投稿費用に充てたいと考えている。
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Research Products
(2 results)