2017 Fiscal Year Research-status Report
都市における建物の老朽化と私法・公法の役割-ドイツの状況-
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17K17787
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
藤巻 梓 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (70453983)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 建物の区分所有 / 荒廃建物 / ドイツ法 / 建設法典 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度における研究の主目的は、ドイツにおいて、区分所有建物の老朽化に伴う問題はどのように対処されることとなるのかを調査することにあった。当初、平成29年度においては、文献調査を行うとともに、ドイツ人研究者との意見交換を実施する予定であったが、別記の通り、学会参加が不可能となったため、ドイツ法については主として文献調査による研究を行った。 ドイツにおいて区分所有建物の建替えに関する議論が殆ど見られない理由として、従来、ドイツにおいては建替えの必要性が実際に認識されていないことが指摘されてきた。他方で、ドイツにおける建替えに関する議論が活発化しないことについては、そのような老朽化建物に対する対処は、民事法たる区分所有法ではなく、公法によってなされるべきであるとの考えが背景にあることも予想された。ドイツでは、特に建設法典(Baugesetzbuch、BauGB)において、建物の「状態」に公法的に作用しうる多用な手段を用意していることが挙げられる。具体的には、BauGB136条以下の都市計画上の都市再開発事業、同172条以下の保全条例および都市計画命令、さらに同177条の近代化命令・修繕命令及び同179条の取壊し命令等である。そこで、平成29年度においては、ドイツの建設法典および建物区分所有法に関する法律文献を調査し、上記の建設法典の各条文の解釈および適用について検討したほか、荒廃建物について誰が行政上の責任負うのかという問題について、建物区分所有法上の問題も交えて検討を行った。 また、日本法についても、様々な研究会等に参加し実務家との意見交換を行うなど、情報の収集ならびに実態の把握に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度においては、(1)近時のドイツにおける建設法典分析し、それに対する学説の反応 、およびそれ以後の議論の展開をたどること、(2)日本法における老朽化した区分所有建物に関する問題状況の再確認をすることを予定していた。 (1)について、平成29年度において、ドイツ人研究者との間で意見交換を実施する予定であったが、予期しえない事情により出張を中止することとなった。そのため、平成29年度における本研究課題は、国内における文献調査を主体として実施することとした。文献調査においては、調査対象となる建設法典の各条文の趣旨、解釈および適用関係の概要を把握することができた。今後、荒廃区分所有建物についての具体的な適用場面を検討していきたい。 (2)について、国内の学会、研究会に参加し、具体的な紛争事例を検討する機会を得た。そこにおける研究者、実務家との意見交換を通じて、日本法の下での問題状況を再確認することができた。 以上より、本研究は概ね順調に進捗しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度においては、平成29年度の研究の結果を踏まえて、成果を公表する準備を行う。論文の作成の過程においては、日本法およびドイツ法について、多くの疑問点、更なる検討が必要な点が出てくると思われる。実際に、平成29年度の文献の調査の結果、さらに検討すべき論点が明らかとなった。そこで、平成30年度においても、文献の調査、検討を引き続き行う。 ドイツ法の調査については、10月に開催される住居所有権法大会に参加し、そこでドイツの研究者との意見交換を行うことによって成果を得たい。また、日本法における問題についても、学会および研究会等においてこれまでの研究成果を報告し、他の研究者や実務家と意見交換を行うことにより、研究成果の公表の準備を進める予定である。
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Causes of Carryover |
平成29年度に予定していたドイツにおける研究・調査が予期しない事情により中止となったため、当初予定していた外国出張旅費が未使用となった。これについては、一部を平成30年度における出張旅費に充てるほか、文献収集等の費用に充てる予定である。
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