2017 Fiscal Year Research-status Report
A Pratical Study of the Empowerment in Disaster Recovery Process
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17K17826
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
LEE FUHSING 京都大学, 防災研究所, 特定研究員 (10769938)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 防災教育 / 震災復興 / アクションリサーチ / 主体性 / クロスロード / 外部支援者 / べてるの家 / 当事者研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、住民主体の復興を実現するための方途を理論的かつ実践的に検討することを目的とする。具体的には、地域住民自らがカードゲーム形式の防災教材「クロスロード」の作成と実施に参画するプロセスを通して考察する。 本年度では、東日本大震災の被災地である茨城県大洗町において、「クロスロード:大洗編」という名称の防災学習ツールを被災地住民が自ら制作することを研究代表者が支援することを中心としたアクションリサーチを通して、パターナリズム構造の悪循環を解消することを試み、浦河べてるの家が推進する「当事者研究」の視点から考察した。その結果、第1に、「クロスロード」の制作は、被災地住民が自らが直面する課題を自身の言葉で表現したことを意味し、これは、当事者研究に言う「<問題>と人との、切り離し作業」に相当する。この作業を通じて、一方に、<問題>について主体的に考える被災地住民が生まれ、他方に、当事者とは切り離された客体的な対象としての<問題>が可視化されている。第2に、「クロスロード」として表現された<問題>は、多くの人が共有しうる、より公共的な<問題>として再定位される。 また、大洗町以外のコミュニティで「クロスロード:大洗編」のような当事者自身が防災教材を作成することによる効果をはかるために、研究代表者の出身地である台湾で参加型防災ワークショップ「クロスロード:大洗編」を実施した。その結果、台湾の参加者は、積極的に「クロスロード」の設問を作成した。その理由は、地域の問題を可視化・共有化するだけではなく、行政やマスメディアなどの外部支援者にアピールし、外部者から関心や理解を得るためである。つまり、「クロスロード」は、地域外部とのコミュニケーションのツールとしてみられる。この点は、大洗町で「クロスロード:大洗編」を実施した効果と異なる特徴である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の計画通り、住民主体の復興の取り組みの実現に向けて、「当事者研究」を参照しながら、災害復興過程において住民にどのような不安、矛盾が生じたのか、どのように対処していくのか、また、「クロスロード」活動を通じて、どのように体現したのかを調査することを目的とした。茨城県大洗町住民の「クロスロード:大洗編」の作成プロセスについて、べてるの家の「当事者研究」の視点から考察した。これまで希少である震災復興と精神医療を結びつけた研究を行ったという意味で大きな成果があった。また、災害復興における課題を体系化し、パターナリズム構造の打開に向けて問題を明らかにした。 ただし、当初の計画では、2015年関東・東北豪雨被災地常総市石下地区で大洗町と同様のインタビュー調査および参与観察を行う予定だった。平成29年度では、茨城県大洗町を中心にフィールド活動を行ったため、常総市石下地区で活動することは困難であった。他方で、研究代表者は出身地である台湾で、本研究を実施した。台湾は日本と同じく、地震、土砂災害、水害に苦しんでいる。台湾の地域における復興は、住民が積極的に外部支援者と関係性を構築することが特徴である。「クロスロード」を台湾で実施することで、日台の比較研究により、住民主体の復興の実現に向けて提案を行いたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、災害復興における課題の体系化、課題に向けた対処法の提案と実践、パターナリズム構造の打開という3つを目的として研究を行いたい。 研究のフィールド大洗町では、震災から7年経った現在の課題は、大洗サンビーチの観光客数のさらなる回復および地域防災のソフト対策などが挙げられる。「クロスロード:大洗編」を通じて、さまざまなソフト対策が提案されてきた。しかし、対策の実践に至っていない。その理由は、高齢化、防災人材の不足、防災意識の低下、行政と住民のコミュニケーション不足などが挙げられる。そのため、大洗町が抱える防災の課題に関しては、津波による「犠牲者ゼロ」を打ち出して数々のユニークな対策を実施に移してきた南海トラフ地震の「未災地」である高知県黒潮町の経験と知見が示唆的であると予想される。平成30年度は、研究代表者は「「被災地―未災地」の交流勉強会~茨城県大洗町と高知県黒潮町~」を開催する。大洗町および黒潮町の地域住民で防災のソフト対策の実践方法に関する知見を共有し、解決に向けた議論を交わすことを目的にし、住民主体の課題に向けた対処法を明らかにする。 また、常総市石下地区のフィールド活動では、研究協力者である茨城大学人文学部教授・地球変動適応科学研究機関長伊藤哲司教授と現地の水害の経験と記憶を書きとどめる学生団体「茨大聞き書き隊 Notes」と相談し、「クロスロード:常総水害編」の雛形を作成する予定である。 台湾では、台湾の震災復興の文化・歴史・政治状況そして地域住民と外部支援者の関係性を把握した上で、台湾で作成された「クロスロード」の課題を体系化し、パターナリズム構造の打開を分析する。
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Research Products
(12 results)