2017 Fiscal Year Research-status Report
分子断片化法による結晶性高分子の低波数振動モードの帰属と高次構造解析
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17K17860
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山本 茂樹 大阪大学, 理学研究科, 助教 (60552784)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 高分子構造 / スペクトル分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
結晶性ポリマーの高次構造を解析することは,ポリマーの物性,機能の解明に関連して重要である。低波数振動スペクトルは高次構造に鋭敏であり,その簡便な分析法となりうる。しかし低波数振動スペクトルの帰属は不確かであった。本研究においては,結晶性ポリエステル,ポリアミド,ポリエチレンについて,低波数振動スペクトルを測定し,分子断片化法による量子計算スペクトルと比較することで,低波数振動モードの高精度な一般的ピーク帰属を達成する。さらにab initio分子動力学と分子断片化法を組み合わせ,低波数振動スペクトルの温度依存性と高次構造との相関関係を明らかとする。もって低波数振動分光を用いた結晶性ポリマーの高次構造解析法を確立する。 本年度は,極低波数顕微ラマン装置を開発した。非球面レンズを用いて,励起レーザーを直径約30 μmに集光し,試料の薄膜ポリマーに照射した。XYZステージを新たに設置し,レーザーの照射位置を調整可能とした。さらに,ペルチェ制御の温度コントローラをステージに組み合わせ,試料温度を-20℃から100℃の範囲で調整可能とした。 低波数振動モードの帰属には,スペクトルを量子力学計算し,実験スペクトルと比較することが有効である。本年度は,分子断片化法によるスペクトル計算を正確に行うための準備として,低波数振動モードの非局在性を理論計算により検討し,量子計算の際に考慮すべき分子長さを明らかとした。特に,ナイロン6について分子断片長さを変えて計算を行い,低波数振動スペクトルの量子力学計算を適用し,実験スペクトルと比較することで,ピーク帰属を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定どおり,高分子試料を温度変化させつつ測定可能な低波ラマン装置を開発できた。さらに、Nylon-6およびpoly(ε-caprolactone)について分子断片化法により低波数振動スペクトルを予測でき、かつ実験結果と良い一致が得られたことによりピーク帰属を達成した。このことは本研究の目的である、低波数振動分光による結晶性ポリマーの高次構造解析、を部分的に達成している。そのためおおむね順調に進展している、と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
低波数振動スペクトルの温度依存性を量子力学計算により再現することで,低波数振動スペクトルと高次構造との相関関係を明らかとする。その為に,温度による構造変化(格子間隔の変化,分子鎖の歪み,分子鎖の構造ゆらぎなど)を分子動力学により予測し,得られた構造に分子断片化法を適用し計算スペクトルを得て,実験の温度変化スペクトルと比較することで,どの構造要素がスペクトル変化を引き起こすのか明らかとする。PHB, Nylon6, およびPLAについて低波数振動スペクトルと高次構造との相関を明らかとし,PGAの結果と比較し,低波数振動に共通する相関関係を見出す。 NBO解析をポリマーモデル構造に適用し,分子鎖間に働く相互作用(水素結合,立体反発,静電相互作用)の位置,方向,および強さを明らかとする。モデル構造の高次構造を変化させNBO解析を行うことで,どの相互作用が支配的に高次構造を決定しているのかを明らかとする。
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