2017 Fiscal Year Research-status Report
「体育」概念の再定義:「体育学概論」と「生き方としての哲学」からの挑戦
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17K17869
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
林 洋輔 大阪教育大学, 教育学部, 講師 (60645555)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 体育学概論 / 生き方としての哲学 / 体育の再定義 / 精神の修練 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度においては、成果論文の枠組みづくりを進捗させることに関連する二次文献の収集を行うとともに、成果論文を「体育哲学」の観点から作成するために議論のいわば「核」となる知見の提示およびその妥当性についての研究発表を複数行った。具体的に述べるならば、2017年5月における日本哲学会での発表において、20世紀フランスの哲学史家であるピエール・アドの思想研究を通じて哲学が「生き方を導く」ものとして捉えられ、この視点を成果論文に持ち込むことが確認された。さらに同年9月には「第5回日中哲学フォーラム」の日本側哲学若手研究者の代表一員として発表するなど、研究課題における哲学基盤の完成に向けて作業を進めた。 他方、成果論文は原著論文もしくは総説論文のいずれかで作成することを予定するため、双方に対して活用できる「体育哲学」およびその前身となる「体育原理」分野の二次文献を収集することに努めた。このことは成果論文に特色ある概念装置となる「体育学概論」を完成させるための予備作業ともなるものであった。この「体育学概論」の妥当性については2017年12月に行われた研究発表において成果が提示された。その結果、「体育学概論」とは単にこれまでの類書に見られたように、「体育学」に含まれる諸分野の概説に留まるものではない。むしろ「体育学概論」の本来の責務とは「学問を通じた或る生き方への導入」であることが議論を通じて浮き彫りとなり、上記アドの「生き方を導く」ものとしての哲学観が「体育学概論」という呼称・性格のもとで科研費最終成果論文に組み込まれることの妥当性が確認された。 小括的に言えば、初年度は「研究成果論文に必要な文献の収集」および「研究成果論文の議論基盤となる知見の提示とその学問的妥当性の確認」の二つの主な課題であったが、それらについてはいずれも研究代表者の予定通りに果たされていると結論づけられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究成果の実績」欄でも述べたように、研究初年度に掲げた二つの達成目標、すなわち「研究成果論文に必要な文献の収集」および「研究成果論文の議論基盤となる知見の提示とその学問的妥当性の確認」の二つについて、いずれも研究代表者の思惑通りに果たされており、初年度の目標はひとまずにせよ達成できたと考えられる。 ただし、複数の研究課題を抱える現在、研究活動の中心として科研費課題を今後さらに推進するためには他の研究課題のいわばエッセンスを科研費の成果に組み込む必要がある。例えば哲学分野の研究発表を行う場合、それが本科研費研究の成果といかなる関連を有するかについて検討する必要がある。別の見方から言えば、複数の研究課題を同時的に遂行する場合、各々の研究成果が部分的なものであっても科研費の成果に組み込むことができるよう、各々の研究が相互に有機的な連関を保ちながら科研費研究が進捗するようにしたい。 また現状を考えて今後の課題となるのは、初年度は「原著論文」または「総説論文」のいずれに対しても研究成果を発表できるようにやや広角的に研究資料を収集したことが特徴的であった。しかし、研究活動に係る諸負担の低減の観点から考えるならば、投稿論文の種類をいずれかに絞ることが望ましい。すなわち、研究二年目は研究成果を投稿する論文の種類について照準を絞ることでさらに研究が進捗させる。 また今回の研究成果の発信方法については、いまのところ日本語および欧文のいずれについても対応可能であるが、これまでに収集した研究文献(二次資料)についてはいずれもわが国における「体育」概念の変遷あるいは「体育学概論」の状況を確認するものであるため、日本語での論文発表を検討してはいるものの、今後の研究状況進捗に合わせて随時に検討することとしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の支出総計は同年支給金額の半額程度であるが、この意図については二年目の夏季に北京で行わる「世界哲学会議」への参加決定が背景にある。8月に海外学会で一週間の予定により研究発表および哲学に関連する情報収集を行うため、滞在費をはじめとした諸経費を見越すことで初年度の必要経費を最低限度に抑制したことが主な理由となる。この世界哲学会議における発表では「体育学概論」の枠組みについて、哲学の側面からさらに議論の妥当性を強固にすることが目指されている。これらの意図により、一方における上記学会参加にやや余裕を持たせる経済的配慮が行われるとともに、発表準備が進められている。 他方、研究成果の完遂に向けて現状では文献複写により研究資料の収集を続けている。具体的には「総説論文への対応」を念頭として、投稿を予定する学術雑誌に掲載された過去の総説論文を複写することで論文の構造および議論の進め方について、検討を続けている。この場合、当初の念頭に置かれていた「体育哲学」「体育原理」分野における「体育」概念の総括と展望が述べられることになるのか、それとも「体育学概論」の名称の通り「体育学」の全体にわたって「体育」がどのように捉えられてきたのかを調査するのかといった「研究の限界」を定める作業が今後の課題として位置づくことになる。この問題については研究の進捗状況にも左右されるが、現状では体育学を俯瞰するなかで可能な限り「体育」の用例や概念の実質について言及された資料を渉猟し、自らの研究状況をも勘案しながら最終決定する。 研究成果発表については、昨年に引き続いて複数を予定するものの、上記の夏季における国際学会にて「体育学概論」の哲学基盤を確認する発表を行う他、冬季に進捗の成果について発表する機会を設ける。また科研費研究とは異なる他の成果発表についても、科研費の議論に好影響を与える論理を見出したい。
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Causes of Carryover |
2018年8月に北京で行われる「世界哲学会議」への参加費および渡航費に資金を充当する。この国際学会における発表は現代における「生き方としての哲学」の事例とその妥当性を問うものであるが、その成果は科研費成果論文における哲学基盤に大きな影響を与えることが研究代表者において確認されている。すなわち、研究課題である「体育」の再定義を行うに際し、分析枠組みとなる「体育学概論」は体育(哲)学の諸分野における「体育」の用例を分析し、「生き方を導く」との視点から体育を再定義する際の分析装置に相当する。 しかし、問題となるのは上で言及された「生き方」という語彙の曖昧さ、不確定さである。この問題に対して研究代表者は哲学分野で「生き方としての哲学」に関わる研究発表および議論を多く重ねることにより「生き方」という語彙の実質およびそれを不可欠の構成要素とする「体育学概論」の実質を固めていく。それゆえ科研費の成果論文に先立つ分析装置(分析枠組み)の妥当性および有効性を固めるために上記学会にて発表し、その結果を科研費の研究成果に応用する。 なお、当初の予定変更に伴う上記学会参加の影響として、文献収集の費用に変更がせまられる。この点については、文献収集の対象を一昨年時の申請時に予定していた「書籍中心」から「原著・総説論文中心」に切り替えることにより問題解決が図られる。
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Research Products
(4 results)