2018 Fiscal Year Research-status Report
「体育」概念の再定義:「体育学概論」と「生き方としての哲学」からの挑戦
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17K17869
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
林 洋輔 大阪教育大学, 教育学部, 講師 (60645555)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 体育学者 / 体育学 / 福祉を創る者 / 体育 / 生き方 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度、研究代表者は原著論文を総計3本上梓することが叶えられた(別掲)。科研費による資金協力をはじめ関係各位に多大なるご厚誼・御支援を賜ったものであり、報告書を提出するいま、深謝の念を新たにしている。 上記3本のうち、最終年度である2019年度の成果論文に最も関連する原著論文を『人間福祉学研究』に寄稿した。すなわち「福祉を創る者――体育学者の実質をめぐる論考」がそれであるが、本「若手研究B」助成の最終目標である「体育概念の再定義」に向けて着実な歩みを示すものとなった。背景と実績を簡略に述べるならば、次の通りである。「体育」概念の再定義において問題となるのは、「体育の元々の原義である教育と無関係な研究(発表・論文)が現在の体育学を支える重要な部分として認識され、位置づけられている」ことにある。別の言い方をすれば、「体育」がその翻訳語である「Physical Education」と名指ざせない「体育」を現在、明らかに確認することができる。今回の当該原著論文においては、研究対象の未だ明確ではない体育学の研究従事者たる「体育学者」の実質が明らかにされた。その結果、「体育学者」とは「体育の学者」ではなく「体育学の者(しゃ)」である。すなわち身体運動を介した福祉ある生活を期し、学究の成果に基礎づけられつつ生活に有用かつ善く生きるために必要な知恵を自ら用いる者を指す。別の角度から言えば、身体運動の研究を通して人間の日常生活に資する知見を研究するばかりではなく、自らもまたその知見に預かることで自らの生を歩もうとする者が「体育学者」――つまり「体育学の者」と呼ばれうる。学問における理論の構築や術語の発明にとどまらず、いわば「身体運動の学術を生きる」者が体育学者と言えるのである。本研究は以下で述べるように最終年度の成果論文に直結する成果となるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
体育学の観点から「体育」概念の再定義に迫るとの本研究において、順調な成果を確認することができる。昨年2017年度は主に資料収集および海外における研究発表を通じて最終成果に向けた基礎部分を固めた。これに対して2018年度は「体育学者」をめぐる議論のように、体育概念の実質に対して具体的なアプローチを行う事により、今後取り組むべき課題と進むべき指針が明らかとなった。具体的にいうならば、「教育」とは無関係な「体育」をどのように扱うかといった問題に対し、2018年度は「福祉」の観点から回答を試みたものといえる。採択を許された応募者による本研究の「研究計画書」においては、初年度に体育概念の再定義に向けた分析装置としての「体育学概論」を図書渉猟によって作成すると述べ、すでに作業が完成している。具体的には「人文学象限・社会科学象限・自然科学象限」の三つの区分から体育学会の発展に即して通時的に「体育」を検討するとの見立てが確立している。すなわち研究計画書において提案した「分析の視角」についてはすでに用意が整っている。また体育概念については今年度の研究成果を踏まえ、それに関わる者に「身体運動ある生き方」を示唆するものであるとの知見も掴んでいる。このことについては最終成果論文にて詳述されるであろうが、体育とは最広義に意味を取るという前提の「倫理」にも関係する概念ではないかとの方向性を研究代表者は見ている。このことについては一方で体育が「教育」概念を今なお保つ現状、また他方で教育とは無関係な分野の研究成果の顕在といった双方をにらみつつ展開することとなろう。研究状況については、最終年度に成果論文を査読付き原著論文もしくは総説論文のいずれかによる執筆・投稿する計画であってこれに揺らぎはなく、投稿先および成果論文の概要については現在も検討中であるが、当該の作業も今のところは問題なく進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は他の欄でも述べたように総説論文もしくは査読付き原著論文を学術雑誌に投稿し掲載を図りたい。その準備を研究代表者は目下進捗させている。研究論文の外郭としては、まず体育の再定義について、「体育学はこれまで体育をどのように捉えたか」といた観点から議論を進めてゆきたい。具体的に言えば、健康・スポーツ・身体運動そして教育すべてを含む「体育」をどのように認識してきたのか、認識しているのかといった過去と現在について総括的に議論を行っていく。その際、根本的な問題提起として次の点を挙げておきたい。すなわち、「体育」と「Physical Education」は果たして同義であり続けたのか、あり続けているかとの問いである。このことは一見奇妙な響きではあるものの、研究計画書に記載した通り、「体育の原義である教育を捨象した研究が体育学・体育学会において重要な位置を占め、貢献を果たしている」といった現状に鑑みるとき、決して捨て置くことのできない意味を有するものと思われる。そこで最終成果論文では「体育」の概念とPhysical Educationを必ずしも等価とはみなさない立場も視野に入れて議論を進めていく。また「体育」の再定義に関わる議論を進めるにおいては、人文学・社会科学・および自然科学の各象限に区分しながら体育学の研究成果を俯瞰していく「体育学概論」との分析装置を「検討の視座」として採用予定のほか、最終的な回答のなかには研究計画書にも記載したように「生き方としての哲学」の知見も踏まえて議論を作成したい。具体的に言えば、「学問とはそれを学ぶ者に生き方を教え導くものである」との根本命題を通じ、哲学を生き方の実践と見なす見解である。当該知見を体育学に置き換えるならば、「身体運動ある生き方」の指針を教えるものが「体育(学)」であり、2018年度「体育学者」論文の知見も投入が見込まれる。
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Causes of Carryover |
2019年9月に中国・広州で行われる国際学会(「日中哲学フォーラム」)に若手研究者日本側代表の一員として参加・発表する見込みとなった。具体的には、今回の科研費・若手研究の課題における「思想基盤」ともいうべき「生き方としての哲学」に関係する研究発表を行う。当初(2016年秋期の本研究の申請時)、この海外研究発表は代表者において想定されていなかったが、研究の進捗にともなって2018年下半期より海外における当該発表の可能性が生じた。他方、今回の資金備蓄はこの研究発表によって生じる旅費(往復渡航費)や宿泊に使用する見込みであるが、研究最終年度となる2019年度も数度の国内研究発表および成果論文における英文抄録校正など事前の計画通り、主たる出費事項として予定されている。そのため、2018年度の予算計画を改めて検討するに際し、次年度に資金を持ち越す必要性が代表者において認識された。これらの経緯を主たる理由として、残金20万円余りを2019年度に持ち越すとの決定・判断に至った。
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Research Products
(5 results)