2019 Fiscal Year Research-status Report
The Paradox of Mexican Economic Growth: The case of Japanese Automobile Enterprises
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17K17874
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
内山 直子 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 講師 (90738577)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | メキシコ / ラテンアメリカ / 経済 / 自動車産業 / USMCA / NAFTA / 貧困 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年のトランプ米大統領就任以降、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しなど、米墨経済・ビジネス関係は、両国間のみならず日本を含む世界中でその動向が注目される中、メキシコにおける日系自動車産業を軸にメキシコの経済発展の諸課題の解明を試みる本研究の意義は極めて大きい。 2019年度は、前年度に引き続き、日本貿易振興会アジア経済研究所「ラテンアメリカ政治経済社会」研究会外部委員としても活動し、研究成果を2019年11月のラテン・アメリカ政経学会第56回全国大会(於:獨協大学)パネル企画『AMLO政権下のメキシコ政治経済』で報告するとともに、同研究所『ラテンアメリカ・レポート』第36巻第2号に「マクロデータから読み解く AMLO 政権下のメキシコ経済の実情」と題する論文として刊行した。『ラテンアメリカ・レポート』は学術誌でありながら無料公開ウェブジャーナルとして一般にも広く公開されており、前年度に発表した論文「メキシコ自動車産業における NAFTA 再交渉の影響:日系企業を中心に」とともに時宜を得た論文として幅広い読者を獲得し、学会報告に加えて経団連等の企業向け一般講演会にも招待され、その知見を学術界のみならず一般社会に対しても広く共有することができた。 また、前年度から国際ジャーナルに投稿していた英語論文"Do Conditional Cash Transfers Reduce Household Vulnerability? Evidence from PROGRESA-Oportunidades in the 2000's"がラテンアメリカ経済研究を専門とする査読付き国際学術誌EconomiAに掲載された(Volume 20, Issue 2, 2019, pp. 73-91)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前述の通り、前年度に引き続き、日本貿易振興会アジア経済研究所「ラテンアメリカ政治経済社会」研究会外部委員および同研究所発行の学術誌『ラテンアメリカ・レポート』編集委員会委員となり、同研究所を中心とするラテンアメリカ研究者と広く意見交換する機会を得るとともに、『ラテンアメリカ・レポート』誌に論稿を寄稿する機会に恵まれたことは、本研究課題の進捗に役立った。 2019年のメキシコ経済を取り巻く状況については、NAFTA見直しによって2018年中に3国合意に至った米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の批准をめぐり、アメリカ議会において米・民主党の合意内容の修正を求める協議が難航し、法案が議会を通過し、大統領による実施法案への署名がなされたのは合意から1年以上経った2020年1月末であった。アメリカ議会での法案承認を受け、カナダ議会でも2020年3月に実施法案が可決され、2020年夏以降にUSMCAが発効する見通しとなった。このように、メキシコ経済の命運を握るUSMCA批准をめぐり2019年を通して不確実な情勢にあったことに加え、メキシコでは2018年12月に政権交代が起こり、それまでの経済政策重視の保守派政権に代わり、国内・社会政策重視の左派政権が誕生した。その意味で2019年のメキシコ経済は、多くの関係者、特にNAFTAおよびUSMCAを梃子に北米市場戦略の一環としてメキシコに進出する多くの日系自動車関連企業にとって二重の意味で先行き不透明な年となった。 そのため、2019年度は本研究において特に、最新のメキシコの左派新政権の経済政策について、現地インタビュー、現地資料および最新の統計データを用いて分析し、その結果を学会報告の上、最終的に論文としてまとめ、『ラテンアメリカ・レポート』に掲載した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は本研究課題の最終年度となるが、本研究課題については当初からメキシコ国内外の情勢変化に直面してきた。2017年にトランプ米大統領が就任し、NAFTA見直しやメキシコ移民への強硬姿勢といった対メキシコ政策の転換は、アメリカを最大の貿易相手国とするメキシコ経済にとっての影響は計り知れない。一方、メキシコ国内でも2018年12月に既存政党への不満を背景に左派新政権が誕生し、これまでの新自由主義経済政策からポピュリズム政策への転換が懸念材料となった。新政権による政策転換とNAFTAを引き継ぐUSMCA批准手続きの遅れによるメキシコ経済の不確実性の高まりは、NAFTAを軸に北米ビジネス戦略を描く日系進出企業にとっての足枷ともなった。それに加え、コロナウイルス感染は4月以降、アメリカに続いてメキシコでも急拡大し、収束のめどは立っていない。左派新政権の失策と相まってメキシコにおける2020年の経済成長予測は最悪の場合、2008年のリーマンショックを大きく上回るマイナス10%にまで落ち込み、ラテンアメリカ地域で最も大きな経済的打撃を被る可能性も指摘されているところである。 研究計画では、今年度もメキシコ現地調査を予定していたところであるが、コロナウイルス感染の状況次第では実施を見直さざるを得えず、アンケート調査をベースとするデータ分析等については計画を変更する予定である。加えて在宅勤務により研究活動範囲が制限されている上、学期中はオンライン授業の準備と実施により例年以上に研究以外の負担が増えているところである。今年度は日本国内で先行研究レビューやデータ整理を中心とした下準備、およびインターネット上の現地報道を用いてメキシコ情勢のアップデートを適宜行う予定である。さらに、コロナウイルス感染収束後の本研究課題の継続と発展を見据え、今秋の科研費申請に向けた準備を行う。
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Causes of Carryover |
2018年度に計上していた現地調査のための海外出張費を外部委員を務めたアジア経済研究所の予算で賄い、科研費計上分を使用しなかったため。 また、今年度も現地調査や学会のための(海外を含む)出張費を計上しているが、コロナウイルス感染状況次第である。現地調査が困難であると判断した場合は、国内での先行研究レビュー等のための資料購入やデータおよび資料整理のための人件費(謝金)として使用することも計画しているところである。
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