2017 Fiscal Year Research-status Report
Investigation of colloidal flow behavior in the vicinity of solid-liquid interface using laser measurement based on the interference of evanescent waves
Project/Area Number |
17K17875
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Research Institution | Shibaura Institute of Technology |
Principal Investigator |
白井 克明 芝浦工業大学, 工学部, 准教授 (00634916)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | コロイド / 伝熱 / 電気運動学 / 固液境界 / 泳動 / レーザー計測 / エバネッセント波 / マイクロ・ナノスケール |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、熱輸送媒体としてのコロイドの流動挙動と伝熱特性の関連に注目する。液体にナノサイズ金属粒子を添加したナノ流体では、粒子濃度から予測されるよりも高い熱伝導率が報告され、より高効率な熱輸送を実現する作動流体として期待される.また,溶媒にマイクロ・ナノサイズ相変化物質を分散させた相変化エマルションは体積あたりの熱容量に優れ,潜熱蓄熱輸送媒体として有望である.こうしたコロイドは流動性を持つことで熱輸送媒体としての利用が期待され、固液境界での伝熱を伴う。そのため,伝熱特性の解明と向上には境界近傍における粒子挙動の把握が重要である。
固体壁近傍での流動挙動を捉えるには粒径程度の高空間分解能が要求される。本研究では固液境界の全反射で発生させたエバネッセント(EW)波を干渉させ、コロイド粒子による散乱光を利用してレーザードップラー原理に基づき流動速度を計測する.EW波は流体側への浸透距離が極めて短く,境界面垂直方向に回折限界を超える高空間分解能を実現できる.また,マイクロ粒子画像流速計や速度プロファイルセンサーと異なり,計測体積が常に壁面に固定され、境界面に対する位置の不確かさが生じることなく計測できる.さらに,粒径が波長よりも小さくレイリー散乱が支配的な熱輸送コロイドでは散乱光強度が粒径の6乗に比例して著しく減衰するのに対し、本計測では光電子増倍管など高感度光検出器を利用でき、画像計測では観測不能な微粒子の挙動を捕捉できると考えられる。
本研究は研究期間を2年間で計画し、1年目に計測システムを設計・構築し計測可能な粒子サイズを把握し、2年目に試験セルの温度境界条件を確立し、定常伝熱下で熱輸送コロイドに電場を印加し流動させた状態で本格的に計測する。固液界面の伝熱で電場を印加した際に電気泳動と電気浸透によるコロイド粒子の電気運動学的挙動を調べ,熱輸送コロイドの伝熱特性への影響を調べる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目は研究計画どおり、計測システムの確立を目指した.計測システムは全反射によるエバネエッセント派の干渉により、ガラスと試験コロイドの接する固液境界から約300 nm以内の領域のコロイド粒子の流動速度を計測すべく構築した。計測信号のSN比の向上のため、可干渉性の高い狭線幅のレーザーを光源として導入した。また、研究対象のコロイドは粒径が小さくレイリー散乱が支配的となることを考慮し、検出器を光電子増倍管に換装した。これらの結果、信号のSN比に大幅な改善は見られなかったが、以前の検出器では観測不能であった微弱な散乱光を観測でき、粒径のより小さなコロイド粒子の計測が実現可能な見込みとなった。
次に、計測原理の検証と計測性能の評価を実施した。検証実験では、半球レンズとロッドレンズを組み合わせた自作プローブの先端にコロイド粒子を模擬したアルミナ粒子を付着させ、ガラス表面に形成された計測体積を一定速度で走査した。その際に粒子による散乱光のドップラー周波数を計測するとともに、走査速度をレーザー変位計で計測した。その結果、ドップラー周波数と走査速度は比例関係にあり、比例定数が干渉縞間隔の設計値と不確かさの範囲内で一致したことから、計測原理が設計どおり成立することが実証された。
さらに,溶液中のコロイド粒子の流動速度計測を試みた.試験セルにアルミナ水溶液を充填し,直流電場を印加して粒子を泳動させ、ガラス壁面から約300 nm以内の領域の粒子流動速度を計測した。その結果、印加電場強度に対し概ね比例した流動速度が得られ、これは過去の研究での理論計算から予想される挙動と整合した。また、他の研究で報告された水溶液中のアルミナ粒子とガラス壁面のゼータ電位から固液境界での粒子流動速度を計算した。実験で得られた流動速度はその予測範囲に納まり、本計測システムでコロイド粒子の流動速度の計測が可能なことが確認された.
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Strategy for Future Research Activity |
1年目の研究では計測システムを確立し、計測原理と性能を検証し、コロイド粒子の流動速度を計測した。しかし、研究を通じて課題も見つかった。まず、可干渉性に優れた光源を導入したが、信号のSN比の向上は僅かに留まった。この問題は根本的原因が把握できておらず、今後も検討を続ける。また、計測中に予期せぬノイズによる周波数ピークが計測周波数帯域に出現する問題に悩まされた。判明した原因の中には光源の冷却ファンによる機械的振動によるものがあり、本研究のようにサブミクロン・スケールの実験ともなると振動対策の必要性も明らかとなった。さらに、ノイズの原因を調べるうちに、粒子による散乱光に加え固液境界での散乱光も同時に観測され、その周波数が本来のドップラー周波数によるピークとともに出現することが確認された。これは事前に予見できなかった問題で、今後の研究を進めるうえで解決を要する。マイクロ粒子画像流速計測と異なり、本研究では蛍光粒子を使わずコロイド粒子そのものをトレーサー粒子として計測に用いる。そのため固液境界での全反射による散乱光の影響を避けられず、粒径のより小さな粒子の計測を実現する際にその散乱光が粒子の散乱光と比べ相対的に強まって障害となる。そこで2年目の実験では計測システムの光学系を1年目までの差動型ではなく参照光型に配置し、全反射面での散乱光を積極的に計測に活用する方針である。また、溶液中の粒子の計測ではプローブ走査実験と比べ実験データのばらつきが数倍に増加した。これは実験条件の再現性の難しさと、粒子のブラウン運動による影響と考えられる.ブラウン運動には温度依存性があり、試験セルの温度境界条件の確立も課題である。このほか、独立基盤形成支援を受けて倒立型顕微鏡を導入した。今後は顕微鏡による画像計測と本計測システムを併用し、ハイブリッド計測を実現し、多角的視点でコロイド複雑流動の解明に取り組む。
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Causes of Carryover |
新たに導入したレーザー光源の価格が為替レート変動の影響を受け、研究申請の際の見積金額と比べ10万円以上高騰したため、別の機種を選定し直して購入した。また、当初は導入予定が無かったが、光源への戻り光を抑制するのにアイソレーターが必要なことが判明したため導入した。その影響で当初1年目に導入予定であった高電圧リニアバイポーラ電源の購入時期を2年目に延期した。また、当初の計画に無かったが研究分野で重要な国際会議に参加したことで旅費と参加登録費が生じた。そのため、導入予定の計測用コンピューターを他の研究予算で購入するなど1年目の残り予算を節約し、2年目にバイポーラ電源の購入費用を確保すべく予算を残し繰り越すことにした。2年目には繰り越し分と合算するなどして、計画していたバイポーラ電源を導入する方針である。2年目の国際会議参加に伴う旅費と参加登録費用は別の予算で支出し、残りは主として1年目に見出された問題の解決に必要な部品購入に充てる計画である。
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