2017 Fiscal Year Research-status Report
仮想通貨をめぐる国際私法・国際取引法上の法的規律方法の探求と通貨法概念の再構築
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17K17955
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
松永 詩乃美 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(法), 准教授 (10456915)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 仮想通貨 / ビットコイン / 国際私法 / 国際取引法 / 国際民事訴訟法 / 金融法 / 民法 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) 本研究の1年目である29年度は、仮想通貨に関する基礎的な文献を収集したり、研究会に参加して仮想通貨そのものの基礎的知識に関する情報を収集し、非常に新しい仮想通貨というもの自体を理解することを努めた。 (2) 法学の観点から見た仮想通貨に関してどのような問題があるのかについての文献調査を行なった。外国文献では、英文文献や中国や台湾の中国語文献を収集した。この分野に関しては、非常に新しいテーマであるため、法学の観点からの文献は、まだ決して多くはない。本研究を計画した時から今まで、ビットコインをめぐる状況もめまぐるしく変化しており、今後も引き続き文献のアップデートが必要であるが、現時点で入手できる文献はかなり収集している。 台湾や中国の文献については、台湾での現地の国家図書館及び大学の図書館において文献を収集をした。公に発行されている仮想通貨に関する文献は多くはなかったが、ほぼ入手することができたと思われる。収集した中国語文献については、中国語を母語とする研究者の協力を得ながら、翻訳作業を進め、入手した文献のうち、重要な文献については、翻訳作業がかなり進んだ。 (3) 本研究課題の本格的な検討は、欧米の分析と日中台の検討を終えてからのこととなるが、本格的検討に向けての基礎的な研究を2つ公表した。台湾の漢學研究中心のウェブサイトにおいて公表した業績は、東アジアにおける外国金銭債権に関する通貨法及び国際私法上の研究を行った。これは、本研究課題を構想するきっかけとなる研究であり、本研究課を今後推進する上で基礎となる。さらに、台湾の国際裁判管轄に関する規定に関する論文を執筆した。これは、国際家事事件に関するものではあるが、国際裁判管轄の考え方の基礎は、財産法分野もかなり共通するところはあるため、次年度以降は仮想通貨に関する国際私法・国際民訴法分野の検討へつながる成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、文献・立法資料等から発見された問題点・疑問点の解消と資料の補充のため、長期休暇の講義のない時期に海外でシンポジウムなどに参加したり、インタビューなどを通して情報収集および資料収集を行うことまで考えていた。しかし、スケジュール等の問題や、本研究の対象とする仮想通貨に関してこの研究開始ごろから約一年の間かなり激しい環境変化があったり、まだ法学の観点から仮想通貨に関して研究を行う専門家があまりおらずにこれが果たせなかった。 平成29年度の旅費が余っているのはこのためであり、平成30年度に補完することを予定している。 とはいえ、本研究の初年度は、仮想通貨それ自体の仕組みなどを理解することや、海外の法規制などに関する文献収集については、公表されている論文についてはかなり入手することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 本研究が採択された平成29年年4月には、仮想通貨を決済手段として認める改正資金決済法が施行されたのは、本研究に関する日本の法規制の大きな動きであった。一方で、その頃の直前からその後8ヶ月後の12月には約20倍もビットコインが暴騰し、その後2ヶ月で7割以上も急落し、ビットコインの乱高下は激しい。さらに、コインチェック事件が平成30年1月26日に騒動を起こしたコインチェック事件では仮想通貨NEMの管理のずさんさが明らかになったりした。仮想通貨のマーケットそのものがまだ黎明期にある。本研究の観点である法学、国際私法学の議論は、このような現実の仮想通貨をめぐる動静が激しいため、今後に公表される論文も決して多くはないだろう。本研究期間内の学会での議論の方向性は予測しづらい。 (2) その上で、今後は、本年度に収集した文献を読み込み、分析を行う。ビットコインに代表される仮想通貨の仕組みに関する知識を固めつつ、読み込みを進めている法律文献を元に実体のある通貨の概念や通貨に関する法規制に関する議論を検討し、一定のまとめを行う。仮想通貨に関する議論については、日本に関しては2017年に施行された改正資金決済法について文献等の調査を行い仮想通貨に関する日本の法状況についてまとめる。海外に関しては、文献の翻訳、読み込みを進め、分析を行う。 (3) 仮想通貨を取り巻く状況の変化はあまりにも大きすぎるため、引き続き動静に注視しつつ、文献収集も継続しアップデートを行う。 (4) まだ新しいこの分野について専門的に研究を行っている学者はあまりいないが、学会の研究者は関心を持っているようである。そのように関心を持っている、あるいは関連する専門分野の研究者と意見交換をしたり助言をもらう。 (5) 大学の紀要等で、以上より得られた成果を論文などにまとめ成果を発表する。
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Causes of Carryover |
研究対象の仮想通貨の環境が大きく変化する一年であり、専門家へのインタビューをする時期を見合わせたことや、本務校の業務日程と調査対象国である中国や台湾の旧暦行事が合わないことなどの理由から、当初予定していた海外出張ができなかったため次年度使用額が生じた。世界的にはまだまだ仮想通貨の環境が安定するか予測が困難であるが、日本で生じたコインチェック事件は収束したため、今年度はまず日本法の法規制について理解をしまとめをしながら、海外の議論についてシンポジウムや文献収集により情報をアップデートを行い、本研究の基礎部分についてまとめを行う。この分野に近い熟練研究者に助言を得ながら、本研究の後半部分の研究手法を必要に応じて修正しながら研究を進める。
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