2017 Fiscal Year Research-status Report
急性心筋梗塞におけるコルヒチンの急性期抗炎症作用と予後及び長期的効果の検討
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17K17956
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
藤末 昂一郎 熊本大学, 医学部附属病院, 特任助教 (10779151)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 心筋梗塞 / コルヒチン / 炎症 / インフラマソーム / 左室リモデリング |
Outline of Annual Research Achievements |
心筋梗塞における抗炎症戦略が待望されているが、未だ有効な抗炎症療法は確立していない。冠動脈結紮心筋梗塞マウスモデルを用いた予備実験では、心筋梗塞後のコルヒチン投与は、心筋梗塞後4週間にわたり生存率、心機能低下を改善し、心不全発症を抑制した。急性期効果としては心筋梗塞領域のサイトカインとNLRP3インフラマソームのmRNA発現の抑制が認められた。これまでの結果からコルヒチンが心筋梗塞後の炎症反応を抑制することが示唆されたが、作用機序の検証が不十分であった。 本研究では、梗塞心筋に集簇する炎症細胞を病理学的に評価を行うと同時に、全身の炎症反応を検証した。心筋梗塞1,3,7日後心筋の病理切片をGr-1(好中球)、F4/80(マクロファージ)で免疫染色し定量評価を行うと共に心筋梗塞部位の好中球ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を測定した。結果、コルヒチン投与群では対照群と比較し梗塞部位に集簇する好中球数とマクロファージ数が抑制され、MPO活性が抑制されていた。一方、末梢血中の白血球、好中球数とIL-1betaは抑制されなかったことから、コルヒチンは全身ではなく、梗塞部位局所の炎症細胞集簇と活性化を抑制することが示された。 続いて心筋梗塞7日後の梗塞領域における細胞外マトリックスのmRNA発現を評価したところ、コルヒチン投与群で有意に発現が抑制されていた。また、心筋病理組織においてMasson-Trichrome染色による瘢痕サイズの計測を行ったところ、瘢痕サイズはコルヒチン投与群で縮小していたことから、コルヒチンは心筋局所の過剰な炎症反応と細胞外マトリックス発現を抑制することにより、心筋梗塞サイズを縮小させると考えられた。 以上からコルヒチンは梗塞心筋局所の過剰な炎症を抑制し、梗塞サイズを縮小させることにより慢性期にわたって心機能を保持し予後を改善させる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度までの研究成果から野生型マウスの冠動脈結紮心筋梗塞マウスモデルにおいては、コルヒチンが心筋梗塞部位局所の炎症反応を抑制し、梗塞サイズを縮小させることによって慢性期にわたって左室リモデリング抑制、心機能低下抑制、心不全発症抑制を抑制することが示唆された。コルヒチンが古典的な炎症を抑制することを示してきたが、近年注目されている無菌性炎症に関与するインフラマソームを介した経路に作用するかということに関しては検証が不十分である。これまでの実験で、冠動脈結紮心筋梗塞マウスモデルでNLRP3インフラマソームmRNA発現が増加し、コルヒチンがその増加を抑制することは検証できた。しかし熊本地震の影響で施設の復旧に時間がかかったことからNLRP3インフラマソーム活性化経路として重要なCaspase-1活性化に対する抑制効果の検証や、NLRP3阻害実験による検証が不十分である。 また、自然発生の心筋梗塞では、冠動脈のプラーク破綻やびらんに引く続き血栓閉塞で発症するため、血管内で起こる炎症反応が検証が不可欠である。血管の炎症におけるコルヒチンの効果の検証が求められているが、本研究におけるこれまでの検証では心筋に限定しており、血管の炎症に関するコルヒチンの効果が検証できていないため、今後検証する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
心筋梗塞後に亢進するNLRP3インフラマソーム活性化経路をコルヒチンが抑制することが期待できる結果がでてきている。この実験結果をより強固なものにするために、引き続きNLRP3ノックアウトマウスを用いたNLRP3インフラマソーム阻害実験を行い、NLRP3インフラマソーム経路におけるコルヒチンの効果を検証していく。NLRP3ノックアウトマウスの実験系がうまく機能しない場合は薬理学的にNLRP3を抑制し実験をすすめる。 血管の炎症におけるコルヒチンの効果を検証する必要があるがマウスで自然発生心筋梗塞モデルは存在しないため、血管の炎症に対する効果の検証が求められるようになってきた。従って大動脈または下肢動脈に炎症を惹起し、コルヒチン投与による炎症反応の変化を検証する必要が生じた。そこで、実験計画を修正し下肢動脈結紮モデル、あるいは大動脈に塩化カルシウムを塗布することによる腹部大動脈瘤モデルを用いた実験系でもコルヒチンの血管の炎症に対する効果を検証する。
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Causes of Carryover |
熊本地震の影響で実験施設の復旧に時間がかかり、研究再開に時間を要した。このためNLRP3遺伝子改変マウスの購入費を計上していたが、本年度の購入、飼育ができなかったため次年度使用が必要となった。また、同様の理由でFlowcytometryやCaspase-1活性化を測定することができなかったため、抗体類やCaspase-1活性アッセイキットとして計上していた予算を次年度に使用する計画である。 また、もともと梗塞心筋のみでの検証を行う予定であったが、心筋梗塞に深く関連する血管の炎症に対するコルヒチンの効果の検証が求められるため、血管をも含めた実験計画の修正が必要となった。血管に対する炎症反応を検証するための体制が整わなかったため、次年度使用額として計上する。
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