2018 Fiscal Year Research-status Report
Basic Study on the Trading Pass System in the 17th century East China Sea Maritime World
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17K18011
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
彭 浩 大阪市立大学, 大学院経済学研究科, 准教授 (80779372)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | トレーディング・パス / 文引 / 牌照 / 信牌 / 執照 |
Outline of Annual Research Achievements |
明代後期の渡海「文引」に関する実証研究の成果を論文化して出版した。論文のテーマは、「明代後期の渡海「文引」:通商制度史的分析からの接近」であり、『国書がむすぶ外交』(松方冬子編、東京大学出版会、2019年1月)に収録され、刊行された。これは、本科研の第1段階の最も重要な成果であり、初めて明代の渡海文引に関する専論として位置づけられる。論文では、中国で「文引」と呼ばれた公文書の歴史、宋代の「公憑」(海外渡航貿易の許可証)や「文引」(国内の通行証・通航証)との関係性、明代の渡海「文引」制の創設、「文引」市場流通の実態などについて詳しく検討した。 次に、前近代東アジア世界の各種のトレーディング・パス(唐代の「公験」、宋・元の「公憑」、明の「勘合」、明後期の「文引」、清朝の「牌照」、江戸時代日本の「信牌」など)を時系列にまとめたうえ文章化し、単著『Trade Relations between Qing China and Tokugawa Japan:1685-1859』(シュプリンガー, 2019年夏刊行予定)に収録した。当該書は、著書『近世日清通商関係史』(東京大学出版会、2015年)の英文改訂版にあたるが、新しい研究成果も取り入れている。現在はすでに最終の校正作業の段階に入り、出版情報はシュプリンガー出版社のホームページに掲載されている。 また、関係する成果、とくに長崎貿易に関わる部分については、日本のアジア研究会(Asian Studies Conference Japan)、イリノイ大学やイェール大学で開催されたシンポジウムで研究報告を実施し、本研究の研究成果を英語圏でも広く披露した。詳しくは「研究発表」の欄を参照。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、前述のように、ほぼ予定通り、学術論文「明代後期の渡海「文引」:通商制度史的分析からの接近」(松方冬子編『国書がむすぶ外交』東京大学出版会、2019年1月)を発表した。 つづいて、2018年度の前期、すでに入手した資料、『日本関係海外史料 オランダ商館長日記』(東京大学史料編纂所編、東京大学出版会、1974~2015年)シーリズの第14・15冊を閲覧しはじめ、17世紀中期、中国商人がオランダ東インド会社に通商許可証としてのパス(pas)を申請し、発行してもらった諸事例を整理し、史料の研究メモを作成した。同資料集の各巻をさかのぼって読んでいく計画があったが、年度の後半に在外研究(日本学術振興会「国際的な活躍が期待できる研究者の育成事業」の一環としてアメリカのイェール大学に派遣)を実施し、入手した関係資料をすべてアメリカに持っていくことが難しいため、当該作業をいったん棚上げにした。 在外研究の実施期間中の2018年秋、ワシントン・DCの国立公文書館の史料調査に参加し、「日米修好通商条約」締結関係の一次史料を閲覧することができた。それをきっかけに、通商条約に関心を持ち、日本関係のもののみならず、同時代中国の通商関係の条約も精読しはじめた。その結果、「南京条約」や「望厦条約」の条文に「牌照」関係の内容もあったことが確認できた。意外とも、新しい研究が展開していく可能性が見えてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度8月まで、アメリカのイェール大学での在外研究を引き続き実施する予定であり、イェール大学の豊富な学術資源を活用し、とくに17世紀以降西ヨーロッパ諸国の世界展開に関する諸研究を学び、ポルトガル人の植民地勢力が発行するカルタス(通航許可証)や、諸東インド会社が発行したパスなどに関する史料を収集していく。後期、日本に戻ってくると、いったん棚上げにした「オランダ商館長日記」関係の諸史料の精読を再開する。同様な問題関心から、オランダ東インド会社関係のパスの研究を進めていく。 それと同時に、昨年からすでに大きな進展があった、清朝の海外貿易関係の「牌照」に関する考察をさらに進めていきたい。歴史民俗博物館との共同研究(「近世近代転換期東アジア国際関係史の再検討-日本・中国・シャムの相互比較から」責任者は福岡万里子、2016~2018年度)に参加しており、2020年に共同研究の成果論集を企画している。清朝の海外貿易に関する「牌照」の実証研究の成果を学術論文の形にして当該論集に掲載することを検討している。
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Causes of Carryover |
次年度は、日本国内の史料所蔵機関(国立公文書館・東京大学史料編纂所・東洋文庫・長崎歴史文化博物館など)で史料調査を実施するための経費、および研究会の参加のための経費が必要である。一方、上述のように、当該研究の新しい側面を模索しているため、これまで読んだことのない文献資料を入手する必要があり、複写料や書籍代の支出も計画したい。 また、前述のように拙著『近世日清通商関係史』(東京大学出版会、2015年)の英文改訂版も2019年の夏に出版される予定であり、いまいよいよ最終校正の段階に入る。改訂版には、日本語版にある信牌に関する考察がもちろん、本科研に関わる新しい成果として、前近代東アジア世界のトレーディング・パスをまとめた内容も取り入れている。著書の質を確保するため、ネイティブチェックを受ける必要があり、そのために経費がかかる。 なお、在外研究中、学術分野(とくにアメリカの大学)のペーパーレス化が進んでいること、とくに史料のデジタル写真を閲覧し、研究メモを取るための道具としてIPADを中心にタブレット端末が広く利用されていることを実感した。研究の効率を高める、新年度は高い映像閲覧の機能および筆記機能を備えるタブレット端末も購入したい。
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Research Products
(5 results)