2018 Fiscal Year Research-status Report
Photoreduction of carbon dioxide using porous glass nanocavity under ambient condition
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17K18013
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野地 智康 東京大学, 先端科学技術研究センター, 助教 (40452205)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 人工光合成 / 多孔質 / ガラス / ギ酸 / 光水素発生 / 嫌気 / 再生可能 / 光触媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の結果から、多孔質ガラス板内部に導入したRu金属錯体により光還元されたメチルビオロゲン(MV)が細孔内部に存在する酸素を還元し尽くし、細孔内は嫌気的条件になることが示唆された。このことが、多孔質ガラス板を用いることで、酸素大気下でも二酸化炭素を光還元する人工光合成を達成できる重要な要因の一つであると考えられた。細孔内部の酸素濃度分布を可視化するため、共焦点レーザー顕微鏡にて細孔内部に固定されたRu錯体の燐光寿命を測定したところ、多孔質ガラス板の外側表面付近よりも中央付近の方が、溶液系のRu錯体の嫌気的条件に匹敵する程、寿命が長くなっていた。この結果から、多孔質ガラス板の中央付近は嫌気的条件になる事が明らかになった。より酸素濃度に敏感なRuフェナンスロリン錯体を多孔質ガラス板内部に固定し、嫌気的条件から酸素大気下に戻した後の定常燐光強度の時間依存性から、酸素流入速度は細孔径(20-80 nm)に依存し、細孔系が比較的小さい20 nmで、流入速度が最も遅くなった。一方で、Ru錯体を用いたMVの光還元速度は50 nmが最も早くなった。酸素流入速度より光還元速度が500倍以上で、最も速くなる細孔径が50 nmであることが、多孔質ガラス板を用いた人工光合成反応が、50 nmで最適化される重要な要因の一つであったことが明らかになった。 Ru錯体よりも光電荷分離反応の量子収率が高い、天然の光合成膜タンパク質である光化学系I(PSI)と、水素発生触媒である白金ナノ粒子を結合させた天然-人工ハイブリッド光触媒を、酸素大気下で機能させるため、多孔質ガラス板に導入した。過渡吸収の結果と反応速度論を用いた解析から、上記と同様に、ハイブリッド光触媒でも酸素大気下で光水素発生反応が起きることを明らかにした。また、水から電子を獲得する機能を持つ光化学系IIの細孔内部における耐久性の測定に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書に記載した主要な研究計画は当初の予定より早くすべて実施できた。酸素が多孔質ガラス板に流入する速度を見積もる事や、多孔質ガラス板内部の酸素の分布を可視化し、「多孔質ガラス板の中央付近が嫌気的条件になり、人工光合成のための光反応を起こしやすい環境が構築されている」という仮説が証明できた。このような条件は、Ru錯体とメチルビオロゲンを用いたときのみならず、PSIと白金ナノ粒子を複合体化させた天然-人工ハイブリッド光触媒にも適応できる事がわかった。PSIはRu錯体よりも、可視光応答性に優れ、光誘起電荷分離反応の量子収率が高いため、更なる効率改善が見込まれる。また、多孔質ガラス板内部に固定されたPSIの過渡吸収を行うことで、PSIと酸素の反応性を直接測定できるようになった。前年度に引き続き、水から電子を獲得する人工光合成に発展させるため、光化学系IIを多孔質ガラス板内部に固定し、その耐久性を測定する実験系を構築できた。耐久性は溶液系とほぼ変わらないが、電子受容体であるキノンとの反応性が向上し、水分解反応効率が溶液系よりも改善された。光化学系IIを固定した多孔質ガラス板の光水分解反応効率は、葉の効率のおおよそ半分程度の性能にまで迫った。 Ru錯体を用いた系に関しては、議論に必要な実験データおよび解析が完了した。一方で、PSI、PSIIを用いた系は実験データは得たが、解析が遅れている。以上のことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
各種の実験データは得られたため、その解析を行い、議論を深める。多孔質ガラス板を利用することで、酸素大気下でも二酸化炭素や水素イオンの光還元に伴うギ酸や水素分子を合成する人工光合成が可能となる機構を、定量的に説明した論文発表を行うことを目標とする。光化学系IおよびIIの反応の最高速度を多孔質ガラス板内部でも達成できれば、葉に匹敵する人工光合成デバイスが構築できる。しかし、未だにそのようなデバイスは設計されていない。溶液系でも多孔質ガラス板系の場合も、電子受容体の交換速度で反応は律速されている。多孔質ガラス板内部に固定した光化学系IおよびIIの機能を改善させ、大気下における人工光合成反応を改善させるためには、光化学系IおよびIIと外部電子受容体との衝突反応を改善させる必要がある。そのため、研究をまとめる過程で、大気下で機能するデバイスや分子の再設計を考案し、次の研究テーマの準備を行う。 光化学系IおよびIIから効率よく電子を受け取る分子設計のためには、光化学系の内部で起こる反応の理論化学的理解も必要である。そのため、今後は、東京大学 先端科学技術センターの石北研究室にて光合成膜タンパク質や光応答性タンパク質の理論化学計算を行い、本研究テーマに則した人工光合成の研究の発展に貢献する。
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Causes of Carryover |
2018年9月1日より、東京大学 先端科学技術研究センター 石北研究室に着任した。そのため、備品の移動費用や旅費の確保のため、予定していた消耗品類の購入を控えた。石北研究室における必要な消耗品類や備品の購入を最も合理的に判断するためには、研究室の環境にある程度慣れる期間が必要と判断したため、次年度使用額が生じた。研究計画はおおむね順調であるため、次年度の研究計画は新しい研究室で本研究が進展するような消耗品類、備品を購入する計画である。
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Research Products
(6 results)