2017 Fiscal Year Research-status Report
視聴覚情報の統合過程において感情システムが果たす役割の実験的検討
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17K18069
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
竹島 康博 同志社大学, 心理学部, 助教 (50755387)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 感情 / 視聴覚統合 / 時間的注意 / 空間的注意 / 分裂錯覚 / 融合錯覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,実験環境整備および次年度以降に実験に向けての予備的検討を行った。 本研究課題の目的は,視聴覚統合処理において感情情報がどのように機能するのかについて,視覚的注意の観点から実験によって調べていくことである。そのため,時間的な注意に関連した課題として注意の瞬きを,空間的な注意に関連した課題としてドット-プローブ課題を用い,まずは恐怖と嫌悪による影響に違いを検討していく予定である。しかし,注意の瞬きについてはそれぞれの感情が機能する第1標的と第2標的の時間間隔が,ドット-プローブ課題については各表情へ空間的注意が向くための時間が不明であった。そこで,今年度は視覚刺激のみでの実験を行い,これらの不明なパラメーターについての検討を行った。 注意の瞬きについては,第1標的に恐怖顔,嫌悪顔,統制条件としての中性顔を提示し,第2標的との時間間隔を操作し,注意の瞬きによる見落としの割合を比較した。その結果,恐怖顔については第1標的の提示開始から600ミリ秒以降で見落としが低減することが,嫌悪顔については100ミリ秒で見落としが低減することが示された。 ドット-プローブ課題についても,手がかり刺激として恐怖顔,嫌悪顔,中性顔を提示し,ターゲットとの時間間隔を操作して反応時間を比較した。その結果,恐怖顔は提示開始から350ミリ秒後にターゲットを提示することで反応が速くなるのに対して,嫌悪顔では提示開始から150ミリ秒後のターゲットへの反応が遅くなることが示された。 その他,当初の予定にはなかったが,本研究の目的を別の角度から調べるため,感情情報を含む刺激によって視聴覚統合によって生じる分裂/融合錯覚の生起頻度が変容するかを検討した。その結果,錯覚が生起しやすい周辺視野では,ネガティブでもポジティブでも感情情報をもつ刺激であれば錯覚の生起が増えることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度から所属機関が変更したことにより,年度の前半はまず実験環境を整えることに終始した。以前使用していた機器の多くが所属機関の所有であったため,実験に必要な大部分の機器を改めて購入する必要があった。しかしながら,これまで使用していたものと同様の実験機器や測定機器を購入できたことにより,購入後はスムーズに実験に移ることができた。 年度の後半は,当初予定していた予備的検討を実施することができた。検討結果によって,不明であったパラメーターを明らかにすることができた。この成果によって,次年度以降の研究を予定通りに進めることできると予想される。 さらに,当初の予定にはなかった実験をも実施することができた。それにより,視聴覚統合の過程において感情情報が何らかの寄与を果たしていることを示すことができた。分裂/融合錯覚の生起の促進にも,注意が関連していると推測される。今後は,当初予定している実験を遂行していくことで,注意がどのように機能しているのかを明らかにしていく。 以上の理由より,本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,当初の予定通りに注意の瞬きおよびドット-プローブ課題を視聴覚刺激を用いて実施する予定である。 今年度の予備的検討により,恐怖および嫌悪感情が時間的注意のタイムコースを明らかにすることができた。したがって,この表情刺激が注意に影響を与えている時間窓の中で聴覚刺激を提示することにより,視覚のみの場合と比較した見落としの割合について調べていく。ただし,視聴覚統合においては刺激の提示時間間隔が250ミリ秒以上必要であることが,先行研究によって明らかとなっている。したがって,嫌悪顔が機能する時間間隔は視聴覚の実験では使用することが難しい。したがって,今後は恐怖顔の機能について重点的に調べていく予定である。 ドット-プローブ課題についても,今年度の検討から空間的注意が引きつけられる時間間隔が明らかとなっている。この課題についても,表情刺激が機能している時間窓の中で聴覚刺激を提示することによって,ターゲットへの反応が視覚刺激のみの場合からどのように変化していくのかを調べていく。なお,ドット-プローブ課題については,恐怖顔が促進的に機能する時間間隔と嫌悪顔が抑制的に機能する時間間隔の両方について調べていく予定である。 また,今後は本年度に実施した分裂/融合錯覚の実験成果の報告を行う。なお,現在すでに投稿は終わり査読が実施されている最中であるため,年度内の採択を目指していく。加えて,注意の瞬き課題やドット-プローブ課題についても,実験結果の再現性を確認しながら論文投稿を目指していく。
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Causes of Carryover |
今年度購入した機器のうち,「デジタルオシロスコープ」の購入額が当初の見積もりよりも若干ではあるが安価で購入することが出来た。これは,現所属機関の所在地が前所属機関から大きく変わり,以前とは異なる代理店から購入したためである。この分については,次年度の英文校正費に充てる予定である。次年度は研究成果の報告を国際誌への論文投稿という形で行っていく予定であるが,ジャーナルとのやり取りの回数が多くなることもあり,その分だけ英文校正も回数が必要となってくる。このように英文校正費は当初の予定よりも費用がかかる場合があるため,次年度使用額をこれに充てることを予定している。
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