2018 Fiscal Year Research-status Report
REDD+におけるセーフガード要件の制度設計の方向性―タンザニアを事例として
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17K18077
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Research Institution | Asia University |
Principal Investigator |
福嶋 崇 亜細亜大学, 国際関係学部, 准教授 (40634291)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | REDD+政策 / セーフガード / パリ協定 / タンザニア / 参加型森林管理(PFM) / 気候変動 / 環境ガバナンス / 吸収源CDM |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、途上国における森林減少・劣化防止を通じた温室効果ガス(GHG)削減政策であるREDD+政策に関し、社会面での課題、とりわけ社会的弱者である地域住民への配慮を規定するセーフガード要件に焦点を絞り、その制度設計の課題と方向性を明らかにすることである。本研究においては参加型森林管理(PFM)のREDD+適用を目指すタンザニアを事例とし、地域レベルではREDD+試験事業地における住民参加の現状及び課題、国レベルではPFMのREDD+適用可能性を、それぞれ現地調査を通じ明らかにする。当該年度は主に1.REDD+政策の国際交渉の進展や各国の動向に関する情報収集、2.タンザニアにおける海外調査、3.以上をベースにした学会での口頭発表ならびに論文の執筆・公表、を実施した。 1.交渉担当者や専門家などへの聞き取り調査や文献調査により、継続的に情報収集を行った。特に毎年開催のCOPではREDD+のルールなどが議論、決定するため、重点的に情報を収集した。 2.タンザニア調査については、特に以下の項目について調査を実施した。中央政府関係者:REDD+政策実施に向けた体制整備状況、PFMの課題やこれまでの経験・知見など/地方政府関係者:上記に加え、当該地の森林状況、PFM・REDD+事業実施状況など/地域住民(アルーシャ州のPFM事業対象地):PFM事業に対する評価、森林減少状況・要因、REDD+事業のポテンシャルなど 3.第130回・日本森林学会では、「タンザニアの国内政治状況が国際気候政策への対応に及ぼす影響」と題して口頭発表を行い、タンザニアはREDD+に対する高い期待を有しているものの、大統領の交代に伴う国内政治状況の変化がREDD+政策はおろかパリ協定への対応を遅らせるものとなっていることを明らかにした。同内容に関する論文を執筆し、『亜細亜大学・国際関係紀要』にて公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
交付申請書に記載していた当該年度の研究計画としては、REDD+の国際交渉の進展などに関する情報収集、タンザニア・ダルエスサラーム及びアルーシャ州を対象とする海外調査、論文の執筆・投稿、学会における口頭発表、としていた。 国際交渉の進展などに関する情報収集は2003年より継続して実施してきており、交渉担当者や政府関係者、専門家などとも十分に良好な関係を構築できていることから、順調に行っている。2015年のCOP21ではパリ協定が締結され、REDD+はそのGHG削減政策の1つとして認められた。一方で、この合意によりREDD+に関する交渉が今後急速に進展する可能性が高く、急速な制度設計は数多くの問題点が未解決なままに政策の形成・実施へと進行する懸念をはらむ。議論の推移について注意しながら引き続き情報収集を行っていく。 タンザニア現地調査については、既に複数回の現地調査を実施してきていることから関係者との関係性も十分に構築できており、既に選定済みのPFM事業対象地における聞き取り調査も円滑に行うことが出来た。一方で、タンザニア政府はダルエスサラームからドドマへの段階的な省庁の移転(同時に省庁内外の人事異動)を行っているため、大きな混乱状態にあり、前年度に引き続き当該年度も同様に政府関係者に対する聞き取り調査を十分に行うことが出来ないという特殊な状況にあった。移転が完了するのは2020年とされており、次年度もしばらくはこの状況が続くと想定されるため、今後はこうした状況下で十分な調査結果を得るための研究の方向性を再検討すると共に、最善な方法を再度検討し直す。 このように十分な調査結果を得づらい状況にあったため、当初計画していた内容を修正し、こうした状態が最貧国の国際気候政策への対応を困難にすることを論じる内容とした上で学会での口頭発表を行い、同内容に関する論文を執筆した。
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Strategy for Future Research Activity |
省庁の移転に伴う状況を除けば研究の実施はおおむね順調に推移していることから、REDD+の国際交渉に関する情報収集、タンザニア現地調査(状況に応じて1-2回)について、次年度も同様の活動を継続する。ただし、タンザニア政府関係者からの情報収集が困難という特殊な(申請時には想定外の)状況は次年度も続くことが想定されるため、電話・メールなどを使用するなどして日本からも積極的な情報収集に努める。 REDD+に関する研究の方向性として、過去8度の現地調査結果を再度見直し、2016年度の科研採択時の研究成果として構築した政策評価フレームワークを用いてREDD+の政策評価を行うと同時に、今後詳細について国際交渉が行われ、いよいよ2020年より運用開始となるREDD+の制度設計のあり方について考察・提言する研究を進めていく。さらに、申請者がこれまで研究対象としてきた吸収源クリーン開発メカニズム(CDM)政策との比較を行うことを念頭に、関係アクターの参加、パートナーシップの現状及び今後に向けた動き、REDD+に対する関係アクターの評価(利点・問題点など)を把握する。(※途上国における森林減少・劣化防止を対象とするREDD+に対し、吸収源CDMは新規植林・再植林を対象とする。2020年度以降のパリ協定への導入が決定したREDD+は、2003年度に導入された吸収源CDMの対象を発展的に拡大したものと位置づけることが出来る。) 最終年度は、これまでの研究成果を取りまとめ、「REDD+におけるセーフガード要件の制度設計における課題と方向性-タンザニアを事例として」について、第131回・日本森林学会(2020年3月)にて発表し、同内容をベースに投稿論文を作成し、『African Journal of Environmental Science and Technology』誌に投稿する。
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Causes of Carryover |
上述の通り、今年度は特にタンザニア政府関係者からの十分な調査結果を入手しづらい状況にあったため、十分な研究成果を上げることが困難であった。そこで旅費(海外渡航費、学会参加や聞き取り調査などのための国内旅費)や物品費(書籍購入費)を繰り越すことで、次年度以降により集中して研究成果を上げられる状況を整えることにした。 次年度は8月、2月の2度タンザニア現地調査を実施するなどして積極的な情報収集に努める。また、海外現地調査や国内聞き取り調査、文献調査などから得られた研究成果をまとめて学会発表を行うつもりであり、このための旅費として研究費を使用する。
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