2017 Fiscal Year Research-status Report
16員環マクロライド・ジョサマイシンによる抗インフルエンザウイルス作用機序の解明
Project/Area Number |
17K18120
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
菅又 龍一 帝京大学, 公私立大学の部局等, 講師 (70595917)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 16員環マクロライド / Leukomycin A3 / ジョサマイシン / インフルエンザAH1N1ウイルス / PR8ウイルス / インフルエンザウイルス遺伝子 / A549 cells |
Outline of Annual Research Achievements |
16員環マクロライド・ジョサマイシン(Leukomycin A3)による抗インフルエンザウイルス活性メカニズムにアプローチするため、インフルエンザA/H1N1ウイルスに感染した肺胞由来のA549細胞をジョサマイシンを添加した培地で培養し、72時間後に培養上清中に出芽したウイルスの力価(感染力価)を測定したところ、ジョサマイシンはウイルスの力価を抑制することが明らかになった(IC50=20 microM)。ただし、この結果はin vitro系でウイルスが宿主細胞のA549細胞に繰り返し感染して出芽する環境で得られたデータであるため、次に宿主細胞に感染した親ウイルスがどのくらいの時間で娘ウイルスを出芽するのか調べた。その結果、ウイルスは感染してからおよそ8時間後に宿主細胞から出芽することが分かった。そこで、ウイルスを低濃度(1500 pfu)と高濃度(2,000,000 pfu)でそれぞれ感染させて、最初の娘ウイルスが宿主細胞内で増殖し、出芽したタイミングで培養上清のウイルス力価を測定したところ、どちらのウイルス感染濃度においてもジョサマイシンはIC50=20 microMで力価を抑制し、ジョサマイシンは感染ウイルスの濃度に依存せずにウイルスの増殖を抑制することが分かった。 一方で、出芽する直前(感染7時間後)の宿主細胞内におけるウイルス遺伝子の転写発現レベルを測定したところ、全10種類存在するウイルス遺伝子の核酸レベルは、いずれもジョサマイシンの投与で影響を受けていないことが明らかとなかった。この結果を受けて、ジョサマイシンはウイルス遺伝子の転写を抑制しているわけでなく、ウイルス遺伝子の転写物がウイルスタンパク質への翻訳過程を抑制している可能性を考え、現在は宿主細胞内のウイルスタンパク質の産生量がジョサマイシンによって変化しているかを追究している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要で述べたとおり、今年度に入ってからジョサマイシンがウイルスタンパク質への翻訳レベルを抑制しているかどうかを検討するために、ウエスタンブロッティング法にて解析をおこなっている。先行して、まずはウイルスタンパク質をシングルバンドとして検出できる特異抗体を見出し、予測サイズの明確なシングルバンドを検出するための細かい条件を検討するために時間を割いている。現在のところ、10種類あるウイルス分子のうち(HA、NA、NP、M1、M2、NS1、NS2、PB1、PB2、PA)のうち、4種類のタンパク質(M1、M2、HA、NA)を検出できる抗体ならびにその検出条件の設定に成功している段階であり、残された他のウイルスタンパク質も検出可能となるように、モノクローナル抗体や、ポリクローナル抗体を用いて条件検討していく予定ではある。 また、研究計画では、親ウイルスが初めに宿主細胞に結合して感染する段階で、あるいは、娘ウイルスが出芽して再び宿主細胞に感染する際に、ジョサマイシンがそれを阻害しているかどうかをフローサイトメトリーで解析する計画であった。こちらについては宿主細胞に結合したフローサイトメーター上でウイルス分子を検出する抗体の選抜を終えておらず、実行に移せていない状況にある。対象のウイルス分子は、表面タンパク質であるヘマグルチニン(HA)あるいはノイラミニダーゼ(NA)がフローサイトメトリーによる検出に適していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、ウイルスの翻訳レベルを抑制しているかについて結論を出すため、ジョサマイシンによってウイルスタンパク質の産生量が抑制されているのかを、10種類のタンパク質を対象に検討することを優先的に考えている。もし、特定のタンパク質の産生量に変化が見られた場合には、そのウイルスタンパク質の翻訳機構に対してジョサマイシンが何らかの形で作用しているという解釈となるため、より詳細メカニズムを明らにするために新たな実験計画を考える必要がある。 一方で、先述の通り、親ウイルスが初めに宿主細胞に結合して感染する際か、娘ウイルスが出芽して再び宿主細胞に感染するとき、またはその両方の段階でジョサマイシンがウイルスの宿主細胞への結合を阻害しているかどうかを見極めるため、フローサイトメトリーで解析する必要がある。ウイルスそのものは微小であるため、フローサイトメトリーでは検出できない。しかし、ウイルスが細胞に結合している状態であれば、蛍光標識の特異抗体を用いて陽性細胞として検出できる。したがって、ジョサマイシン存在下、非存在下で宿主細胞に結合したウイルスのHAあるいはNA分子を蛍光抗体にて検出することにより、ジョサマイシンによる結合阻害を検討する。 また、仮にフローサイトメトリーを用いた実験が軌道に乗らなかった場合には、代替の手法として、MALDI-TOF/MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析)を用いて、ウイルスが細胞に結合するために必須で唯一の分子であるHAとジョサマイシンとの結合有無を検討する方法を遂行する予定である。
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Causes of Carryover |
先述の通り、ジョサマイシンがウイルスタンパク質の産生(翻訳)を抑制しているかどうかを検討するためにウエスタンブロッティング法をおこなっているが、現在のところ、10種類あるウイルスタンパク質(HA、NA、NP、M1、M2、NS1、NS2、PB1、PB2、PA)のうち、3種類のタンパク質(M1、HA、NA)を検出できる抗体を見出したが、残された他のウイルスタンパク質を検出できるモノクローナル抗体ならびにポリクローナル抗体をまだ購入していない状況である。また、研究計画では、ジョサマイシンによる抗ウイルス活性を調べる戦略手段にフローサイトメトリーによる研究を第一選択としているが、この手法に必要とされる(HA)あるいはノイラミニダーゼ(NA)に対する一次抗体と、この結合を検出するための蛍光標識された二次抗体をまだ購入していない状況である。 上記の理由により次年度使用額が生じているが、研究計画に沿って実験をおこなっているため、当使用額は早期に消費されることが予想される。
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Research Products
(4 results)