2017 Fiscal Year Research-status Report
Critical Analysis of Dysfunction of Real-time Disaster Damage Simulation System: "SPEEDI" and Other Cases
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17K18139
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Research Institution | Tokyo Denki University |
Principal Investigator |
寿楽 浩太 東京電機大学, 工学部, 准教授 (50513024)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | SPEEDI / 科学技術社会学 / 構造災 / 政策の失敗軌道 / リアルタイム被害予測システム / シミュレーション / 防災 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、申請書に記載した目的と計画に沿ってSPEEDIの研究開発の経緯や原子力防災におけるSPEEDIの位置づけや期待の変遷についての質的調査調査(関係者への聞き取り調査や文献調査)を進めるとともに、特に、海外の類似技術事例との比較を進めるため、カナダにおけるSPEEDI類似シミュレーションシステムの制度的・社会的位置づけや、それについての関係者(政策担当者、研究者、事業者等)の認識を海外調査により確認した。カナダでの調査では、規制当局、事業者、原子力工学研究者のいずれもが、シミュレーションシステムの原子力防災への活用を、市民社会における価値の擁護、市民の安全や健康の保護に明確に関連付け、彼らが「カナダ流」(Canadian way)と称する丁寧な民主的合意形成プロセスの中に位置づけていること、その際に、戦略的な「意思決定」の重要性を意識して極めて実際的な制度を組み立て、運用していることが明らかとなり、日本の状況との差異が浮き彫りとなった。
また、本研究開始前に行った予備的な調査と今年度の成果を、研究連携先である菅原慎悦氏との共著で英文のbook chapterにまとめ、翌年度(平成30年度)半ばに出版の見通しとなった。なお、このbook chapterについては、研究交流の実績がある米国の関連研究者に面会して完成前の原稿に対するコメントを受け、肯定的な評価を得た。また、本件研究の成果については、科学技術社会論分野の国内外の主要学会である4S (Society for Social Studies of Science)、科学技術社会論学会において口頭発表したほか、2018年2月に来日したベルギー原子力研究センター(SCK CEN)の専門家に紹介し、高い評価を得て同センターが2018年6月に主催する国際ワークショップへの招へいを受けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度においては、上記のように計画に沿って国内外の調査を進め、研究成果の公表・出版もbook chapter1件(収録決定・契約済、次年度前半に出版予定)、国内外主要学会での口頭発表を行うなどしており、概ね順調に推移していると考えている。特に、本研究開始前に予備的な調査を行っていたフランスに加えて、カナダにおいても、原子力防災の制度や運用の実態において、SPEEDIに類似したリアルタイム被害予測システムによって意思決定をいわば「自動化」するような考え方は取られておらず、むしろ、そうしたシステムがもたらすシミュレーション結果を活用して総合的・戦略的な判断を行うための人材育成、制度設計、運用改善、実績蓄積等に力点が置かれていることが確認された点は、日本におけるSPEEDIをめぐるこれまでの政策的・社会的展開の特異性を浮き彫りにする意味で重要な成果であったと言えるただし、本研究の眼目の一つである原子力以外の分野との比較検討を行うための調査については、平成30年度により一層重点をおく必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は質的調査、特に国内での聞き取り調査について、スノーボール法を活用するなどして、その件数と内容の充実に努める。また、2018年6月の上記のベルギーでの国際WS、同7月の科学社会学会、8月~9月に豪州で開催される4S (Society for Social Studies of Science)、11月に米国で開催されるSHOT (Society for the History of Technology)、12月の科学技術社会論学会等での発表を予定しており、随時、研究成果を報告して関連研究者からのフィードバックを得ることで、本研究の内容の学術的妥当性・優位性の確保に務める。
なお、研究代表者が平成30年度より所属本務校での役職を命じられ、校務負担が増大する見通しであることから、エフォート率管理の最適化を図る必要がある。大学院生RAの活用を前年度よりも拡大する等により、研究業務の効率化を図ろうと考えている。
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Causes of Carryover |
国内調査旅費や大学院生アルバイト人件費が想定を下回ったこと、所属校の学内研究費の支援も得られたこと、研究用PC関係について既存機器が継続使用できたこと、出張旅費を中心に経費節減に務めたこと等により、次年度使用額が生じた。次年度においてはアルバイトによる研究支援業務を一層活用する計画であることや、国内外での調査や学会発表を引き続き実施することから、次年度使用額はこれらの用途等に有効に活用したいと考えている。
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