2017 Fiscal Year Research-status Report
補聴器における入出力時間差の許容量の年齢による変化と老人性難聴用補聴器への応用
Project/Area Number |
17K18165
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
村上 隆啓 明治大学, 理工学部, 専任講師 (50409463)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 老人性難聴 / 聴覚フィードバック / 気導音 / 骨導音 / マイクロホンアレー校正 / phase vocoder |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,補聴器の性能改善を行うものである.現在主流のディジタル補聴器では,音の入出力間に発生する遅延時間が可能な限り短くなるように設計されており,これが補聴器に実装される様々なディジタル信号処理技術の性能を限定的にしている.そこで本研究では,対象を老人性難聴に限定することで補聴器に許容される入出力遅延時間を長く設定できることを示す. 老人性難聴用補聴器に許容される入出力遅延時間を明らかにするために,本研究では様々な年齢の被験者を対象として,任意の入出力遅延時間を与えた音を聞いたときの違和感を評価する調査を実施した.この調査では,被験者が発話した音声に任意の遅延時間を与えられる遅延発生装置を開発した.調査の結果,高齢者では大学生と比較して音の入出力遅延時間が長くても違和感を覚えにくいことが示された. 一方,この調査では,音声に含まれる骨導音が原因と思われる違和感が一部の被験者で発生することが分かっている.そこで,骨導音に起因する違和感を軽減するために,発話者自身に聞こえる気導音および骨導音の関係を調査した.その結果,気導音と骨導音には個人差だけでなく音素による差も発生することが明らかとなった.また,この調査では正確な音響特性を測定する必要があるが,正確な測定装置の配置を一般の研究室レベルで実現することは非常に困難である.そこで,ある程度正確に測定装置を配置した後にパイロット信号を測定することで装置の位置の補正を行うマイクロホンアレー校正法を提案した. さらに,本研究では様々なディジタル信号処理技術の補聴器での性能も調査する予定である.これらの技術の1つであるphase vocoderでは,複数の音が混ざった場合などに位相アンラップ問題に起因する音質の劣化が発生することが知られている.そこで,原理的に位相アンラップ問題が発生しないphase vocoderを提案した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では,平成29年度に(1)調査における音響特性の補正法の開発,(2)音の遅延発生装置の開発,および(3)マイクロホンで収音した音における骨導音の補正法の開発,を実施し,平成30年度に(4)様々な年齢の被験者を対象とした音の遅延時間と違和感の調査,(5)高齢者が許容できる補聴器の入出力遅延時間の上限の決定,および(6)長い遅延時間を想定したディジタル信号処理技術の性能評価,を実施する予定であった.上記(1)については,新しいマイクロホンアレー校正法の開発に成功しており,順調に進展している.また,上記(2)については予定よりも早く装置が完成した.そこで,上記(4)を上記(3)よりも前倒しで実施し,良好な結果を得られつつある.さらに,上記(6)についても新しいphase vocoderの開発に成功した.現在は,上記(3)について気導音と骨導音の関係の詳細な調査および上記(4)についてより多くの被験者による調査結果の収集を実施している.
|
Strategy for Future Research Activity |
現在進行している様々な年齢の被験者を対象とした音の遅延時間と違和感の調査について,より多くの被験者による調査結果の収集を行う.そのために,特に高齢者が多く集まる複数の場所に,調査の協力を依頼中である. 多くの被験者の調査結果が得られた後に,この結果にもとづいて高齢者が許容できる音の入出力遅延時間の上限を決定する.ここでは,若年層の調査結果から現在の補聴器での入出力遅延時間の上限における評価値を決定し,高齢者の調査結果においてこの評価値と同じ値を示す遅延時間を導出する. 高齢者が許容できる音の入出力遅延時間の上限が決定したら,雑音除去やビームフォーミングなどの様々なディジタル信号処理技術にその遅延時間を適用して,性能がどのように変化するかを調査する. マイクロホンで収音した音における骨導音の補正法の開発については,発話者の聴覚に伝わる気導音と骨導音の到達時間差を明らかにし,到達時間差に起因する高周波数成分の減衰を人工的に発生させる.
|
Causes of Carryover |
平成29年度は,骨導音の補正法の開発においてアルゴリズムの性能評価のためのシミュレーションを行うために,高性能な計算機の購入価格を計上した.しかし,骨導音の補正法の開発よりも,様々な年齢の被験者を対象とした音の遅延時間と違和感の調査を前倒しして実施することになった.そのため,高性能な計算機の購入を見送った.一方,研究成果を発表するために冬に開催される国際会議への参加のための旅費を計上したが,それよりも早い時期に研究成果が得られたため夏に開催される国際会議へ参加することとなった.そのため,航空運賃等の旅費が非常に高くなった.これらの増減により,当初予定していた金額より使用金額が少なくなった. 平成30年度は,当初の予定では様々な年齢の被験者を対象とした音の遅延時間と違和感の調査に使用するためのノートPCの購入価格を計上していた.しかし,この調査は平成29年度に前倒しして実施しているため,ノートPCの購入は必要なさそうである.一方,骨導音の補正法の開発のために,高性能な計算機が必要となる.そこで,当初予定していたノートPCの購入価格に次年度使用額をあわせて,高性能な計算機の購入に充てる.
|