2019 Fiscal Year Research-status Report
ブランドマネジメントの慣性に関する実証研究:ブランドのあるべき姿の再構築
Project/Area Number |
17K18167
|
Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
大竹 光寿 明治学院大学, 経済学部, 准教授 (40635356)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | アイデンティティ / 正統性 / 組織慣性 / 資源動員 / ルーティン / 所有 / 共有 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、企業組織において新しい取り組みを阻んでしまうメカニズムを検討するものである。具体的には、強いブランドであるが故に生じる組織慣性の発生と強化、それが緩和される条件を明らかにする。 本研究の3年目にあたる2019年度は主に3つの作業を行った。第1に、強いブランドのひとつの条件である正統性に関する消費者側の検討である。前年度までに、正統性が消費者によって見出される際の手がかりを検討してきたが、それ加えて、所有と共有における手がかりには相違が見られること、その移行の際に複雑な影響関係があること、そして同一ブランドの消費において、共有から所有に移行する際にも手がかりの変化が生じることなどを明らかにした。 第2に、そうした所有から共有へという大きな環境変化に直面した企業が、共有型のサービス提供に移行できない要因として、技術やルーティン、既存事業との衝突といった側面だけでなく、消費者から当該ブランドがどのように見られているのか(見られてきたのか)という点と、自分たちが考えるブランドのあるべき姿、すなわちブランドに対する認識が、変化する環境に対する認識に揺らぎをもたらさないという経路があることが明らかにされた。 第3に、こうしたブランドマネジメントの慣性が、当該企業が蓄積してきた資源、特に技術に関わる資源に対する当事者の認識によって影響を受けていることを探索的にではあるが確認した。このイノベーション研究とマーケティング、ブランド研究との接続が、慣性の理論を通じて示されるところが本研究の意義となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述した研究成果の概要に基づいて3つに分けて述べる。 第1に、消費者による正統性探求については、海外ジャーナルに向けて論文をまとめている段階にあり、2020年度前半に投稿する予定である。用いるデータは全て収集済みである。こちらの論文は同一ブランドに対する正統性探求に焦点を合わせている。本論文とは別に、製品カテゴリーを跨いだ多数のブランド、および、調査対象となる消費者を増やして、さらに理論的知見を精緻化している段階にある。こちらについては、予定よりも大幅に進んでいる。 第2に、慣性の強化と緩和の条件については、すでに研究当初に成果として発表済みではあるが、その知見に新たな視点を追加した単一事例研究として本年度、論文を発表する予定になっている。また、追加の事例を多数検討しているところであり、海外事例も今後追加し、事例横断的な分析を行う予定になっている。こちらについてはほぼ予定通り進んでいる。 第3に、技術とブランドの相互影響関係については、これまで継続して取り組んできたテーマであるが、理論的な位置づけが若干不明瞭であり、イノベーション分野の研究との接続において新たな複数の論点がでている状況である。ウオッチ産業の事例研究では因果関係が明らかにされたものの、他の事例への適用可能性は検討中の段階であり、この点だけに関しては予定よりも若干遅れている。 以上の点から、総合すると予定通り進んでいるが、細かく見ると、いくつか予定していなかった論点が出てきており、それを克服する必要があると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
上述した3点について、特に2、3を重点的に本年度行う。ただし、2つめの点については、現在のコロナウイルスの感染状況を鑑みると、海外事例の調査が現地でできない可能性が高い。本研究は郵送表調査によるアプローチだけでなく、現場の声を丹念に集めていくエスグラフィーに近いアプローチも事例研究のなかに取り入れている。したがって感染状況の推移をみながらではあるが、年度の後半に海外での調査を行いたいと考えている。それまで論点整理を行い、また、3つめの新たな課題について、イノベーション研究の知見を見渡しながら、ブランド研究への接続を試みたい。収集した事例は豊富にあるため、こちらについても事例横断的な分析が可能になると思われるが、追加のデータ収集、とくにインタビュー調査は、ウイルス感染の状況を踏まえると、予定通り進まない可能性があるため、zoomやteamsなどを利用してできる範囲で進めていく。
|
Causes of Carryover |
国内の事例に注力したため海外での現地調査を延期したこと、および、上述の1つめの点、すなわち消費者調査を別の研究プロジェクトで進めている調査と並行して行ったことで調査会社を通じた大規模郵送調査を行わなかったためである。現在のウイルス感染の状況を踏まえる必要があるが、次年度(2020年度)に両者とも行う予定である。
|