2017 Fiscal Year Research-status Report
フランスと仏領インドシナの文化的交差―仏越作家の視点
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17K18170
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
平賀 美奈子 (河野美奈子) 立教大学, ランゲージセンター, 教育講師 (20795570)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | フランス文学 / アジア研究 / ポストコロニアル研究 / 世界文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績として、まず2017年6月3日に日本フランス語フランス文学会全国大会(春季大会)において発表を行った。本発表は、研究代表者が博士論文で研究したフランス人女性作家マルグリット・デュラス(1914-1996)の自伝的作品を仏領インドシナ表象とは別の角度から考察しようと試みた。デュラスが幾度も書き換えを行った自伝的作品群のなかに登場する「子供」をもとに、「子供」が幼児性を単に示す存在ではなく、主人公の兄の死を通じて「不死生」をともなった存在として作者によって書かかれていることを明らかにした。そのことにより、自伝的作品群は単なる書き換えではなく、それぞれのテーマが有機的に結びついていることを示した。作品と「子供」のテーマはデュラス研究において非常に重要なテーマだが、自伝的作品における「子供」と「不死性」について考察した研究はなくその点において意義のある研究成果を示すことができた。本発表は論文となり、日本フランス語フランス文学会学会誌『フランス語フランス文学研究』112号に掲載されている。 次に2018年3月31日(土)に世界文学・語圏横断ネットワーク第8回研究集会にて研究発表を行った。本発表は「デュラスとアジア再考ー創造された空間をめぐって」という題目のもと、作品のなかの「アジア 」と「オリエント」の違いを明らかにし、新たな作品の読解を示すことを試みた。デュラス研究者のあいだではしばしば「アジア 」と「オリエント」が混同されて語られている。しかし仏領インドシナに生まれ、19歳でベトナム、カンボジアで過ごしたデュラスにとって「アジア 」と「オリエント」は異なる性質をもっていると考えられる。今はなきインドシナをデュラスの考える「アジア」とし、その「アジア」を自伝的作品とは無縁の作品のなかにみ見出すことによりデュラス研究の新たな側面を提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の計画としては、1年目はマルグリット・デュラスの自伝的作品とインドシナの研究を進め、2年目に仏領インドシナ時代にフランスの教育を受けたベトナム人知識人、とくに作家を研究することを目指している。初年度はデュラスに関する研究発表を2回行い。論文も1本掲載された。そのため、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。さらに2018年3月1日から20日まで、ベトナムのハノイにて研究調査を行なった。ハノイではベトナム国立社会科学図書館とベトナム国家図書館で資料収集を行なった。とくにベトナム国立社会科学図書館では、ベトナム初の日刊新聞『中北新聞』(1915)を中心に研究を進めた。『中北新聞』の編集責任者グエン・ヴァン・ヴィンはフランスに留学し、フランス文学を翻訳を通してベトナムに紹介した人物である。2年目はグエン・ヴァン・ヴィンについての研究を進めることから始めたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の進め方として、まず2018年3月に行なったベトナムのハノイでの研究調査をもとに研究を進めたい。ベトナム初の日刊新聞『中北新聞』の編集責任者であるグエン・ヴァン・ヴィンはフランスへ留学し、翻訳を通してフランス文学をベトナムに紹介した人物である。さらに彼はフランス語での週刊誌『アンナン ヌーヴォー(L'annnam Nouvau)』を発行し、ベトナムの地でフランス語で書くことの意味を問い続けていた。そのためグエン・ヴァン・ヴィン研究は、フランスとインドシナの文化的交わりを探求する本研究の要となると考えている。 『中北新聞』の発行に関しては出版元であるシュナイダー兄弟も重要な役割を担っている。彼らについて研究するために、2018年度はフランスへの研究調査を予定している。フランスへの研究調査は最終年に計画している、インドシナへ移住したフランス人研究も兼ねている。パリの国会図書館とともに、フランス南部エクス=アン=プロヴァンスにあるフランス国立海外公文書館に訪れることを計画している。 以上の計画をもとに研究を進め、研究成果を日本フランス語フランス文学会、日仏東洋学会で発表し、立教大学ランゲージセンター紀要へ論文投稿をしたいと考えている。
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Causes of Carryover |
今年度に行う予定であった本研究の要となるベトナム人知識人研究とフランスへの研究調査を次年度に行うこととなったため、次年度の使用額が生じた。2018年度は研究費をインドシナ関連の書籍購入とフランスでの研究調査のための費用として使用したい。またフランスでの書籍購入の費用にも充てたいと考えている。
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Research Products
(3 results)