2018 Fiscal Year Research-status Report
フランスと仏領インドシナの文化的交差―仏越作家の視点
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17K18170
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
平賀 美奈子 (河野美奈子) 立教大学, ランゲージセンター, 教育講師 (20795570)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | フランス文学 / インドシナ研究 / ベトナム文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、フランスの植民地であった仏領インドシナの1930年代の文化状況を文学的、社会的な角度から分析することによって、今まで焦点が当てられていなかった、当時のフランス人入植者とインドシナの人々、主にベトナムの人々との間で営まれた文化的交差状況を明確に言語化することを目的とする。 2018年度は研究発表を3回行い、論文を1本投稿した。発表では、まず6月に行われた立教大学フランス語・フランス文学会では、デュラスにおけるアジア表象を論じた。この発表をもとにした論文は立教大学フランス文学専修研究室紀要『フランス文学』第48号に掲載されている。11月にはマルグリット・デュラス国際学会で発表を行った。デュラスのベトナムの社会に対する言及をもとに彼女とベトナムの関係を改めて捉え直そうと試みた。また2月にデュラスの映画監督作品である『インディア・ソング』(1975)と『アガタ』(1981)を題材に、彼女の根底にあるヴェトナムのイメージを日本映像学会アジア映画研究会にて発表した。 またベトナムからの視点としてフランスの教育を受けたベトナム人知識人に焦点を当てている。とくに、2017年度に行ったベトナム、ハノイでの研究調査で収集したベトナム初の日刊新聞『中北新聞』とその新聞の主筆となったグエン・ヴァン・ヴィン(1882-1936)を中心に研究を進めている。彼は7つの新聞の主筆となったことで、ジャーナリスティックな面でよく知られているが、優れた翻訳者でもある。『中北新聞』ではグエン・ヴァン・ヴィン訳によるアレクサンドル・デュマの『三銃士』(1844)が連載形式で載せられており、ベトナム人社会においてフランス文学がいかに身近な存在であったかがうかがえる。 研究最終年度ではインドシナへ移住したフランス人入植者の資料についても収集し、分析したいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
学会発表を3回行い、関連論文も1本投稿したため、活発な意見交換をかわすなど大変有益に研究を進めることが出来た結果、研究はおおむね順調に進んでいる。マルグリット・デュラスに関する研究は当初の計画以上に進んでいる。2018年度はデュラスに関する研究発表を3回行った。6月に行われた立教大学フランス語・フランス文学会では、デュラスにおけるアジア表象を論じた。この発表をもとにした論文は立教大学フランス文学専修研究室紀要『フランス文学』第48号に掲載されている。11月にはマルグリット・デュラス国際学会による国際シンポジウムが日本で行われ、そこでデュラスの自伝的作品におけるインドシナ表象をフランス語で発表した。さらに2月の日本映像学会アジア映画研究会にて、デュラス監督作品の映画『インディア・ソング』(1975)と『アガタ』(1981)を通してベトナムについて論じた。とくにアジア映画研究会では、フランス文学研究者だけではなく多くの東南アジア研究者が参加していたことにより、活発な意見交換が行えた。この点は本研究において非常に有益であった。 ベトナム人知識人グエン・ヴァン・ヴィンに関する研究は、昨年度研究調査でベトナムに赴いた際の資料を現在分析中である。その成果はまず研究代表者が所属している立教大学ランゲージセンター紀要にて発表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画として、まずグエン・ヴァン・ヴィンの研究の成果を立教大学ランゲージセンター紀要に発表する。さらにグエン・ヴァン・ヴィンの研究を進め、フランス人入植者の資料を集めるためにフランスへ趣き、研究調査を行いたいと考えている。グエン・ヴァン・ヴィンはベトナムにフランス文学を伝えた人物であると同時に、ベトナムの国民的文学キム・ヴァン・キエムの『金雲翹』をフランス語へ訳した人物としても知られている。彼に関する資料をフランスの側から集め、分析することで1930年代におけるフランスのベトナム文学受容についても明らかにできると考えている。そのため、パリのフランス国立図書館へ赴き資料を集めたい。 さらに当初から本研究の最後に行うこととしていた、フランス人入植者についての研究を行いたい。マルグリット・デュラスの両親のように多くのフランス人が「文明化」の使命のもと19世紀末から20世紀中頃まで仏領インドシナに渡っていった。しかし入植者である彼らは、のちの植民地主義批判により白眼視され、フランスへ帰ってからも沈黙を強いられた。彼らの声を拾い上げることで本研究をより充実させることができると考えている。入植者に関する研究は、フランス国立図書館だけではなく、パリにあるフランス極東学院の図書館、エクス=アン=プロヴァンスにある国立海外公文書館で行う予定である。
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Causes of Carryover |
次年度にフランスで研究調査を行うため、次年度使用額が生じた。
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Research Products
(4 results)