2019 Fiscal Year Research-status Report
フランスと仏領インドシナの文化的交差―仏越作家の視点
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17K18170
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
平賀 美奈子 (河野美奈子) 立教大学, 外国語教育研究センター, 教育講師 (20795570)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | フランス文学 / インドシナ研究 / ベトナム研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、フランスの植民地であった仏領インドシナの1900年代から1930年代における文化状況を、文学的、社会的角度から分析することによって、今まで焦点があまり当てられてこなかった当時のフランス人入植者やフランス式教育を受けた新知識人と呼ばれるインドシナの人々との間で営まれた文化的交差状況を明らかにすることを目的としている。2019年度は発表を1回行い、論文を1本投稿した。また2019年の8月にはフランスのエクス=アン=プロヴァンスにある海外公文書館にてインドシナへ渡ったデュラスの両親に関する資料を収集した。デュラスの作品研究は多く行われているが、このような一次資料に関する研究はまだ多くの研究の余地が残されているため、インドシナへ渡ったフランス人入植者に関する研究につなげていきたい。 2019年度はベトナム側からの視点として、1882年に生まれ、20世紀の始めにジャーナリストとして活躍したグエン・ヴァン・ヴィンについての研究を進めてきた。ヴィンはフランス式の教育を受けた新知識人の一人に数えられるが、長い間歴史の中に埋もれていた。それはベトナムがフランスから独立した後に起きたベトナム戦争による歴史的混乱によるところも大きいが、ヴィンが親仏派とされていたことも大きな要因だと考えられる。ヴィンによる出版物、ベトナム初の日刊新聞『中北新聞』やフランス語による新聞『アンナン・ヌーヴォ』の分析、さらにヴィンが使用を推進したベトナム語のアルファベット表記「クオックグー」についてヴィンの考えを考察することで、ヴィンのフランスへの眼差しが単なる礼讃ではないことを明らかにした。また、ポストコロニアル的観点から本研究で得た成果をもとにして、カナダのケベック州における先住民文学について研究を行い、発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は学会発表を1回、論文を1本投稿した。まず、4月に日本ケベック学会でケベックの先住民文学に関する研究を発表した。ケベックの先住民とインドシナの人々とは離れているがポストコロニアル的観点から考えると両者は多くの共通項を持っている。ケベックの先住民は長い間歴史の周縁に置かれていた。彼らがケベックをどのように捉え、どのような眼差しのもとフランス語で小説を書いているのかを研究することで、同じくフランス語によって活動していたヴィンを代表する新知識人研究へのアプローチに新たな観点が得られた。 8月にフランスのエクス=アン=プロヴァンスにある海外公文書館でデュラスの両親に関する資料収集を行った。特にデュラスの父親に関する資料は、彼女が幼いときに父親が亡くなってしまったためあまり多くの情報がなかった。しかし公文書館には彼の資料が多く残されており、単に作家デュラスの父親ということだけではなく、教師としてインドシナへ渡ったフランス人入植者の資料として非常に貴重な資料を収集することができた。フランス人入植者研究は本研究の最終年度に予定していたことであり、資料を分析し成果へとつなげたい。 本年度の研究成果で最も大きな成果は、グエン・ヴァン・ヴィンに関する研究を論文としてまとめられたことにある。彼に関する研究は数が限られており資料収集に努めたため、研究の成果を出すには時間を要した。しかし、2017年度に赴いたベトナムでの研究調査で集めた資料をもとに、ヴィンが単なる親仏主義者ではなく、ジャーナリストに必要な冷静な社会への眼差しを持ち、ベトナムを見つめていたことが彼の出版物から明らかにすることができた。本論文は立教大学ランゲージセンター紀要第43号に掲載されている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の計画として、まずグエン・ヴァン・ヴィンに関する研究をさらに進めていきたい。2019年度に投稿した論文ではヴィンによって発行された日刊紙『中北新聞』について書いたが、フランス語による新聞『アンナン・ヌーヴォー』についてはまだ多くの研究の余地を残されている。ベトナム知識人たちの間でフランスからの独立の気運が高まった1930年代において『アンナン・ヌーヴォー』はいかなる位置にあり、どのように人々から受け入れられていたのかを明らかにしたい。またベトナムのホーチミン・シティに赴き、公文書館でマルグリット・デュラス に関する資料を収集したいと考えている。以上を持って本研究の成果として発表したいと考えているが、現在世界を混乱させているコロナウィルスの流行次第では計画が変更されることが考えられる。
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Causes of Carryover |
次年度にベトナムでの研究調査を行うため、次年度使用額が生じた。
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