2021 Fiscal Year Research-status Report
フランスと仏領インドシナの文化的交差―仏越作家の視点
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17K18170
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
平賀 美奈子 (河野美奈子) 立教大学, 外国語教育研究センター, 教育講師 (20795570)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | フランス文学 / ベトナム文学 / インドシナ研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「フランスと仏領インドシナの文化的交差-仏越作家の視点」というテーマのもと、インドシナ時代のフランス人作家とベトナム人作家、知識人の研究を行っている。 フランスからの視点として、1914年にインドシナで生まれたフランス人作家マルグリット・デュラスをとりあげた。彼女はサイゴン(現在のホーチミン・シティ)近郊で生まれ、19歳になるまでインドシナで過ごした。彼女はフランスへ帰国後、インドシナを舞台とした自伝的作品を多数発表している。作品のなかでもインドシナ全体を俯瞰した視点で描いていることからも、フランス人としての視点だけではなく、フランスとインドシナの中間地点から小説を書く人物として、重要な研究対象である。 ベトナムからはフランス式の教育を受け、フランス文学に強い影響を受けた知識人グエン・ヴァン・ヴィンをとりあげている。彼は自身が編集を手掛けるベトナム初の日刊新聞『中北新聞』にて、19世紀を代表するフランス人作家アレクサンドル・デュマの『三銃士』や『二十年後』などを翻訳し、掲載することで、ベトナムにフランス文学を紹介した。また彼は、ベトナム語のアルファベット表記である「クオック・グー」の普及を推進した人物の1人であり、1920年代から1930年代のインドシナ隆盛期における教育の面からも重要な人物の1人である。 2021年度は、ベトナムでの研究調査を予定していたがコロナ禍のため実現することができなかった。研究調査については次年度行いたいと考えている。研究調査は実現しなかったが、ポストコロニアル的観点から本研究で得た知見をもとに日本ケベック学会でカナダのケベック州における先住民文学についての発表を行った。またフランス語とベトナムの関係からベトナム系カナダ人作家キム・チュイの小説『ヴィという少女』の書評を行い、『図書新聞』3535号に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
やや遅れていると選択した理由は、本年度は昨年コロナ渦によって行うことができなかったベトナムでの研究調査を予定していた。しかし、コロナの状況が今年度を迎えても好転しなかったため、ベトナムのホーチミン・シティにある国立公文書館での研究調査を行うことができなかった。そのため、本研究の最終段階である、フランスからの入植者研究に関する資料を収集することができなかった。 しかし、フランスからの入植者という点ではフランスからやってきたデュラスの父親に関する研究を論文にまとめることができた。本研究は2021年に発表している。 ベトナム知識人研究では、グエン・ヴァン・ヴィンが編集した日刊新聞『中北新聞』の分析と彼が推進したベトナム語のアルファベット表記「クオック・グー」についての考察を行った。グエン・ヴァン・ヴィンは長らく親仏主義者とベトナムではみなされており、フランスの植民地主義に加担した人物として考えられていた。しかし、グエン・ヴァン・ヴィンの足跡をたどり、彼の業績を分析することにより、彼が単なる親仏主義者ではなく、世界で渡り合えるベトナムの足がかりとしてフランスを利用していたことが窺える。そこには、フランスからの支配以前にベトナムを統治していた院朝への不審が根底にあったと考えられる。また彼はフランス語を通して、インドシナ以外のフランスの植民地の人々とつながろうと構想していたことも明らかになった。以上の成果は論文にまとめている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、まずコロナ禍のため行えなかったベトナムでの研究調査を目的としている。ホーチミン・シティの国立公文書館でデュラスに関する資料と彼女のまわりの入植者の資料について調べたい。デュラスの作品はすべてフランス語で書かれているが、デュラスとベトナム語の関係は長らくデュラス研究者の関心の的だった。というのも彼女はバカロレア(高等教育修了試験)をベトナム語で受けており、彼女の作品にはベトナム語の影響があるとも考えられているからである。この点に関して国立公文書館で資料を収集し、分析することで研究の成果にまとめたい。
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Causes of Carryover |
本年度はベトナムへの研究調査を予定していたが、コロナ禍のため渡航ができず、次年度使用額が生じた。次年度では前年度の残額を、ベトナムのホーチミン・シティの国立公文書館を訪れるための渡航調査費として使用する。また資料収集のための費用としても使用したい。
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Remarks |
【書評】キム・チュイ 『ヴィという少女』 (関未玲訳、彩流社、2021年)、図書新聞、第3535号、2022年3月。
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