2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K18219
|
Research Institution | Nagoya University of Commerce & Business |
Principal Investigator |
瀧野 一洋 名古屋商科大学, 商学部, 教授 (60553138)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 非現金担保 / 派生証券の流動性 / 均衡取引量 / 自己資本最適化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は,派生証券取引時に発生する担保の受け渡しに関して,現金以外に非現金資産が担保として用いられる場合に,担保が派生証券市場に与える影響を明らかにすべくミクロ経済モデルを構築し考察した. 2017年度の研究では,非現金資産を導入した場合に派生証券の取引が縮小することが明らかになった(学術誌Int. J. Financial Markets and Derivativesより公刊済み).ところが,実際の取引所の行動を鑑みれば,この結果は現実を捕らえられているとは言い難い.そこで,本年度は一昨年度の自身の研究内容を改善しより現実の市場を説明すべく経済モデルの構築に務めた. まず,市場参加者は2つの金融機関と想定する.1つの主体はリスク中立的な金融機関(ディーラー)で,派生証券の価格決定者の役割を担い,他方,2つ目の主体はリスク回避的かつ価格受容的な金融機関(銀行)で,銀行は将来の自己資本に対する期待効用を最大にするように派生証券の取引量を決める.銀行は担保の差し出し側と想定し,保有する債券を担保として差し出す.また,対象となる派生証券は銀行も保有する債券について書かれたものとする.銀行の最適化問題を解き,ディーラーが値付ける(均衡)価格を用いることで派生証券に対する均衡取引量が求まる. 研究結果は主に数値分析を通して与えられる.具体的には差し出す担保のうち,現金と非現金資産の割合を変化させた時に,派生証券の取引量がどのように変化するかを観察する.結果は次のとおりである.先渡取引においては非現金資産だけを担保として用いた場合に取引量が最大となる.他方,オプション取引においては現金と非現金資産を適切に組み合わせることで取引量を最大にできる.いずれの結果も,非現金資産を担保として認めることで取引量を拡大させることを示しており,現実の取引所の行動を支持するものと考えられる.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的は派生証券取引における担保制度の在り方を提案するもので,これまで派生証券の流動性(取引量)を最大にするための担保制度の在り方を検証してきた. 研究開始直後は,担保の大きさによる影響に着目し,担保量の変化が派生証券の取引量にどう影響を与えるかを,(1)リスク制約を付加した場合,(2)非現金資産を担保として用いた場合,これら2つの場合について研究を実施した. 【(1)の研究について】これまでの自身の研究では,派生証券取引において担保量を増やせば派生証券の取引量が減ることが示された.ところが,担保量が小さいうちは担保量の増加に伴い取引量も増加することも同時に示されている.本研究では,この結果に対してより経済的な意味を与えるためにリスク制約を導入し,その下で担保量が小さいうちは担保量の増加がリスク制約を緩めることで取引量が拡大することを示すことができた. 【(2)の研究について】これまでの自身の研究では,担保に用いられる資産は現金のみとしていたが,現実には非現金資産も担保して用いられる.本研究では,非現金担保の受け入れの是非を示すために,非現金資産を担保として用いた場合,担保(量)が派生証券取引の流動性に与える影響を分析した.結果として,非現金資産を担保として用いた場合には取引量が低下することが示された. (2)の研究結果を受けて,(3)担保の種類による影響に着眼点を更新した.これは現金あるいは非現金資産どちらが派生証券市場の流動性にとって望ましいかを明らかにするためである.上の「研究実績の概要」でも説明したとおり,非現金資産を導入することで派生証券の市場流動性を高められることを示した.ところが,流動性を最適化すると市場参加者の厚生が減少することも示されている.現状,流動性だけでなく厚生の観点から,担保制度のあり方を検証する準備が整いつつある.
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の目的は派生証券取引における担保制度の在り方を提案するもので,これまで派生証券の流動性(取引量)を最大にできるかどうかで担保制度の是非を示してきた.他方,直近の自身の研究成果で示されているように,流動性の最適化と厚生の最適化は必ずしも一致しない.そこで,今後は厚生を最大にする担保制度の在り方を明らかにする.この研究により,「取引のしやすさ」と「参加者の満足度」を同時に満たす担保制度を明らかにできると期待される.
|
Causes of Carryover |
当該年度は当初の計画通り,研究成果に基づいた論文(英文)の作成,国際会議への参加を主に実施した.論文作成においては英文校正に,国際会議への参加については宿泊費,学会参加費を含めた旅費に科研費を費やしたが,校正を行う論文の単語数,出張国(ハンガリー国)の経済状況により,大きく費用が発生しなかったのが,次年度使用額が生じた理由と考えられる. 翌年度は,この金額を用いて国内外の学術集会へ参加したりあるいは書籍を購入するなどして,研究に役立てるための資料取集に費やすことを計画している.
|
Remarks |
所属研究機関が公開するディスカッションペーパー公開サイトから自身の研究成果を公開した. 論文名は”A Numerical Example of Derivatives Price with Non-cash Collateralization”である.
|