2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K18219
|
Research Institution | Nagoya University of Commerce & Business |
Principal Investigator |
瀧野 一洋 名古屋商科大学, 商学部, 教授 (60553138)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 金融経済学 / 派生証券価格評価 / 社会厚生最適化 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度の研究実績としては,(1)国際的な学術誌での論文の発刊と,(2)国内外の学術会議での発表である. (1)については,非現金担保を考慮に入れた場合の派生証券価格評価法に関する研究で,現在進めている非現金担保の導入が派生証券市場に与える影響を理論的に分析する際に用いられるものである.当該年度は,モデルパラメータを推計するキャリブレーションの方法を見直し,用いられている各金利モデルに対応した金融商品からパラメータを適切に推計することができた.推計されたパラメータを用いて派生証券の価格を計算したところ,従来の方法に比べてより実際の価格に近い評価結果を与えることが明らかになった.そしてこの成果が,国際的な学術誌“The Journal of Derivatives”に採択され,webサイト上で発表されている(2021年5月現在).なお,紙媒体での発刊は2021年秋を予定している. つぎに(2)については,債務不履行リスクが存在する派生証券取引で,担保がいかに同市場の社会厚生を改善するかを明らかにする理論研究である.これは一昨年度から行っている研究で,これまでは預かり担保に対しては利息が発生しないという単純なモデル設定になっていたが,その設定をモデルから外し預かった担保に対して担保レートで利息を支払うことをモデルに加えた.さらに,従来は抽象的なパラメータを用いて,数値分析を行っていたが,投資家を金融機関と想定し,それらの経済状態(生産活動から得られる収益のリスクとリターン,リスク回避度)を銀行の財務諸表から推計した.これにより,より現実的な経済状況を反映した分析が可能になった.結果としては,担保に対して利息が発生する状況下では,金利の大きさ,特に正か負かにより完全担保よりもやや少なめあるいは多めの担保を差し出すことで社会厚生が最大にあることが明らかになった.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね順調に進展している理由は,モデルを適切に簡便化させ,分析を効率的かつ迅速に実施可能な状態を作っていること.また,自身の先行研究成果を応用することが可能なため,迅速に研究を進められる.同じく,並行して実施している研究成果を流用することができ,これも研究の進捗に効果的である.
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は,債務不履行リスクが存在する派生証券取引で,担保がいかに同市場の社会厚生を改善するかを明らかにする理論研究を進めていく. 昨年度までの研究では,実データを反映したパラメータを用いているが,使用した銀行の財務データは日本の大手金融機関2社に対するもので,派生証券取引の参加者は他にも大手の保険会社も想定されることから,それらの企業の財務データを反映したパラメータを用いる予定である.なお,この拡張は昨年度国際的な学術会議で討論者からいただいた助言に対応するものである. また,対象となる派生証券もその買い手のみが債務不履行リスクを抱える状況のみが考えられており,スワップ取引のように双方向に債務不履行リスクが発生する派生証券も対象にしていく.以上の拡張により,想定する投資家および対象となる金融商品いずれも現実的な状況に近づけることができ,同時に参加者および商品の対象範囲も拡大されるため,より頑健な結果を得られることが期待される.
|
Causes of Carryover |
助成金の使途に学術会議での発表に伴う旅費が含まれている.しかしながら,新型コロナウィルスの世界的な感染拡大により国内外の学術会議がオンラインで実施されたため,次年度使用額が0より大きくなっている. 今後の使用計画については,ひきつづき研究成果を論文にまとめていく予定で,それらは国際的な学術誌に投稿されることから,英文校正費用が今後も必要になると考えられる.
|