2018 Fiscal Year Research-status Report
フランスにおける子どもの教育的余暇と芸術文化実践の社会格差に関する研究
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17K18221
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
小林 純子 南山大学, 外国語学部, 准教授 (00611534)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 子ども / 芸術文化教育 / フランス |
Outline of Annual Research Achievements |
文化実践をめぐる子どもの社会化過程を明らかにするための現地調査を行った。第一に、芸術文化教育領域の教育視学官、小・中学校の教師、放課後活動を支援するアソシエーション関係者、アニマトゥール、アーティストらにインタビューを行い、授業や放課後時間等に実施されている文化活動において、教育的な領域と芸術的な領域との間のパートナーシップがどのように実現しているのか、その実態や導入の目的・歴史を調査した。第二に、パリならびにその近郊都市の2つの小学校での読書アトリエ、1つの中学校でのコメディ・ミュージカルならびに映画のアトリエ、1つの余暇センターでの演劇アトリエにおいて参与観察やインタビューを行い、エスノグラフィックな調査を実施した。この調査を通じて、子どもをはじめとする文化活動への参加者の「経験」を描くことに成功した。 その結果、フランスでは文化の民主化に関して、学校の領域と芸術文化の領域がそれぞれ互いを必要として歩み寄りを見せた1980年代頃からパートナーシップに基づくさまざまなプロジェクトが考案されるようになったことが分かった。また、芸術文化教育に携わるアクターのさまざまな見解や考え方が明らかになったほか、子どもが文化活動をどのように体験するかは、政策形成に関わる大人や、教師、アニマトゥール、アソシエーションの想定している効果とは必ずしも一致せず、子どもを取り巻く文化産業やかれらの固有の解釈を通じて、さまざまな経験を産み出しうることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度の研究は聞き取りや参与観察など現地調査を中心に行う予定であった。所属機関の留学期間を利用して現地への長期滞在が可能になったことからエスノグラフィックな調査を実施している。具体的には20名ほどの関係者へのインタビューを実施し、現在4つの教育機関での調査を行っている。放課後や授業時間中に行われている芸術文化教育の多様性と、APGとの比較の重要性に鑑みて、当初計画したようなAPGに特化した調査だけでなく、APG以外の活動についても調査を開始した。また、当初は親に対するインタビューから普段の子どもの文化活動を把握することを試みていたが、子どもの芸術文化実践については量的調査が存在し、これらのデータと、本研究が実施している質的調査から明らかになったことを比較検討することで、文化実践そのものの多様性と文化実践に影響を及ぼしうる要素の多様性を明らかにできることが分かった。さらに、現地での研究会や各種セミナーへの参加を通じて、子ども社会学などの関連領域から着想を得て、本研究のテーマに対する新たなアプローチの可能性について検討している。このため、研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
フランスの学校年度が終了する8月まで4つのフィールドでの現地調査を継続する。また、これまでの観察データやインタビュー、既存の量的調査の資料を分析する。とりわけ子ども社会学の理論枠組みと方法論に依拠しつつ、子どもの芸術文化の経験の記述を試みる。そのため、参与観察に加えて子どもに対するインタビューを実施する。これらのデータの分析を通じて、子どもをはじめ、芸術文化活動に関与しているアクターがそれをどのように受容するのかを明らかにし、子どもが他者との関係において、文化活動や社会生活の能動的な参加者であり、それらを生産する主体でもあることを示すことを試みる。教育社会学や文化実践の社会学のいくつかのアプローチが明らかにしてきたことに対して、子ども社会学や受容の社会学が新たに提示している理論的・方法論的課題を明らかにしながら、「社会化」や「文化の民主化」という概念や考え方そのものの再検討を試みる。その上で、ゼミナールや学会での中間的な報告を通じて、分析枠組みや理論枠組み、方法論の再検討を行う。
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Causes of Carryover |
所属機関の留学期間(2018年4月から2019年8月まで)を利用して現地調査を行っていることから、2018年度は旅費を使用する必要がなかったため、次年度使用額が生じた。2019年度の9月以降は、現地調査に必要な旅費が生じるため、これに次年度使用額をあてる。また、フランスの研究者を招聘することを予定していることから、そのための旅費として使用する。
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