2017 Fiscal Year Research-status Report
「責任ある経営」の拡張と越境――分配的正義を実現に導く持続可能な開発の理論考究
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17K18222
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
高田 一樹 南山大学, 経営学部, 准教授 (20734065)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 責任ある経営 / 配分的正義 / フィランソロピー / 持続可能な開発目標 / 戦略的CSR |
Outline of Annual Research Achievements |
「責任ある経営」(Responsible Management)は、市場経済と経営戦略のグローバル化言説に呼応して形成されはじめた、企業の社会的責任の新たなアイディアである。本研究ではこのアイディアを2つの観点から整理し、その来し方行く先を理論的に検討する目的を掲げている。1つに「責任ある経営」とは、企業が開発途上国に新たな市場性を見出して越境する正当性を、地球規模の課題解決に求める着想である。そしてもう1つに、これまで国連、各国政府、NPO/NGOを担い手としてきた地球規模課題の解決を、企業の新たな責任として受容する戦略的CSRの拡張である。これらの例証として、2000年に発足したグローバル・コンパクト(UNGC)や2015年に採択された持続可能な開発目標(SDGs)をめぐる言説と、国内外の企業対応や取り組み事例を挙げることができる。 本年度には企業がフィランソロピーに取り組む意義を、配分的正義の観点から検討した。ラテン語のフィロ(愛)とスロピー(人類)を語源にもつフィランソロピーは、日本語で「人類愛」や「博愛」と訳される。しかし経営の文脈でのフィランソロピーは、企業の社会貢献や、実業家による慈善活動を指す。本研究では語源と経営実践との理論的な連続性を探究することを通じ、責任ある経営の一端を解明することを試みた。 先行研究では、企業が社会貢献に取り組む理由として、実務家の信仰、中長期的な利益概念(啓発された自己利益)、企業市民としての義務、そして戦略的CSRなどいくつかの観点から論じられてきた。本研究ではアリストテレスの正義論に着目し、経営上の利益配分の意義を配分的正義の観点から検討した。以上の成果を論文1編と学会報告1回として発表した。また、次年度に向けた下準備としてSDGsに関する文献リストと年表を作成し、研究者の管理するウェブサイトに掲載し、本年度の研究を終えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の理由から本年度の研究はおおむね順調に進捗したものと思料する。 1つ目に、企業の社会的責任、および経営倫理に関する文献を学際的な視野に立って収集し、その言説の整理を通じて「責任ある経営」の特徴を新たな観点から捉えることができつつあるため。 2つ目に、「啓発された自己利益」概念や戦略的CSRなど先行研究とは別のアプローチで、企業が社会貢献や慈善事業に取り組む意義を考察できたため。 3つ目に、学会や研究会、シンポジウムへの参加を通じて、共通の関心を持つ研究者らとの学術的な交流とネットワークづくりを試み、本研究に資する助言を受け、情報交換ができたため。 4つ目に、論文の執筆・掲載と学会発表、ウェブサイトを通じ、研究成果を取りまとめ、その一端を発表できたため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、以下の3つの観点から「責任ある経営」概念の拡張と越境に関する理論的な考究に取り組む。 1つ目に、利潤最大化を誘因とする経営戦略論から、持続可能な開発目標(SDGs)に適った経営実践へと「拡張」する企業側の動機とその変節過程を探ること。 2つ目に、「自社の強みを活かした」事業を社会貢献の一環として展開する「インサイド=アウト」から、社会的課題や地球規模の課題を企業側が認識し、それらの解決に能動的に取り組む「アウトサイド=イン」へと戦略的CSRの概念を転換させる着想やアプローチを明らかにすること。 3つ目に、UNGC、SDGs、PRMEなど外部組織が企業の社会的責任のガイドラインやイニシアチブを形成・提唱する過程とそれらの制度の設計思想を、規範的な観点から考察すること。 以上を今後の主たる研究課題として、本年度と同様に、以下の作業に取り組みたい。1つに「責任ある経営」に関する資料を収集し、文献検討を重ねながら、この概念をより精緻に検討し、理解すること。2つ目として、学内外での学術交流を続け、研究上の助言や情報交換を活発に行うこと。3つ目に、研究成果を学会発表、論文投稿、ウェブサイトの更新を通じて発表・発信を試みること。
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Causes of Carryover |
年初に立てた計画通りにおおむね予算を執行し、本年度の研究を履行した。ただし研究資料の収集や整理などの作業を自らで行ったことから、本年度内には当初計上する予定だった人件費の支出はなかった。また、通信費やホームページ管理費用を本年度は自前で賄うことができたため、「その他」の支出も限定的だった。加えて学内業務により海外出張を見送ることになったが、国内学会や研究会に積極的に参加したため結果として、旅費の予算も想定よりは多く支出することとなった。 次年度に繰り越す研究予算については主に物品費として計上する予定である。
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