2019 Fiscal Year Research-status Report
「責任ある経営」の拡張と越境――分配的正義を実現に導く持続可能な開発の理論考究
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17K18222
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
高田 一樹 南山大学, 経営学部, 准教授 (20734065)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 経営倫理 / 企業の社会的責任 / 持続可能な開発 / フロネーシス / 徳倫理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は持続可能な開発目標に、民間企業が寄与する動機や契機について徳倫理の観点から検討した。従来の先行研究では、その理由を市民社会が民間企業に持続可能な開発への協力を期待し、さらにはその期待を受けて企業側が新たなビジネスチャンスを認識・理解するという理由が説明されてきた。また一連の議論を傍証するかのように企業や市民を対象とするSDGsに関する意識調査が行われ、SDGs達成予定年(2030年)までに期待される潜在的な市場に関する試算が提示されるなど、計量的な分析が試みられてもいる。 しかし本研究では市民からの期待も新たな商機も期待できない条件や目標では、そもそもそうした理由づけが成り立たないことを指摘したうえで、経営倫理の観点からこの問いを検討することを試みた。 本研究ではアリストテレスが『ニコマコス倫理学』第6巻「思考の徳と正しい道理」で論じた、知性の分類と役割に着目した。とりわけフロネーシス(実践知)と他の知性との区分に注意を払いつつ、民間企業がSDGsに取り組む理由を理論的に考察した。アリストテレスが構想したフロネーシスは、あらかじめ正確な答えが検証されている知(フロネーシス)や、新たに製作するための知(テクネ―)とは異なり、行為の目的を吟味するとともに、自らの欲求なかの中庸を当て、その発露として行為に移すことを欲する知性であることを整理した。 以上を踏まえ、本研究では、現代企業の経営戦略にフロネーシスを適用する「賢慮の経営」論を参照しながら、民間企業がSDGsに寄与する理由に関する考察を深めた。これらの研究成果を日本経営倫理学会のCFF方式の論文募集に投稿し、掲載された。 年度内には、日本経営倫理学会を中心に年次発表大会、研究会、ワークショップなどに出張した。その甲斐もあり、学術的なネットワークのなかから研究課題に関する情報提供や研究遂行上の示唆を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究は以下の理由から、おおむね順調に進捗したものと考える。 1つ目に、持続可能な開発目標(SDGs)に関する文献を学際的な関心から収集し、その言説の整理を通じ、民間企業が「責任ある経営」としてSDGsに寄与する経営規範上の論点を整理することができた。 2つ目に、アリストテレスが『ニコマコス倫理学』の6巻「思考の徳と正しい道理」で展開した思考の徳論を中心として、民間企業が地球規模の課題解決に取り組む経営倫理的な意義を理論的に考究することができた。 3つ目に、学会や研究会、シンポジウムへの参加を通じ、共通の関心を持つ研究者らとの学術的な交流とネットワークづくりを試み、本研究に資する助言を受け、意見交換ができた。 4つ目に、研究成果をウェブサイトおよび論文に取りまとめ、年度内に発表・発信した。
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Strategy for Future Research Activity |
民間企業が持続可能な開発目標に寄与する理由を、従来の企業の社会的責任論である「責任ある経営」の着想と整合させ、過去3年にわたる研究成果の取りまとめに着手する。研究対象をSDGsの達成に寄与する国内外の民間企業に特定しつつも、分析の枠組みを、本年度取り上げた徳倫理に加え、現代正義論や功利主義や義務論など他の規範理論へと拡張させることも視野に入れる。 2020年度1月末から全世界で新型感染症(COVID-19)が流行しつつある。市場経済にすでに大きな影響を及ぼすなかで、国内外の多くの企業が、医療機器の製造を補佐し日常生活を支援するなど、自社の社会的責任を強く意識した活動に取り組んでいる。他方、SDGsの第3目標は、人類すべてに普遍的な健康と福祉の確保と推進を謳うものである。COVID-19の難局に対抗する民間企業の社会的活動は、本研究テーマに合致するものであり、大いに注視される。 筆者が管理するウェブサイトで各産業を代表する企業の社告・プレスリリースなどを収集・掲載し、民間企業がSDGsに寄与する意義を経営倫理の観点から考究する。併せて学術的な文献により情報収集と検討を進め、研究成果を、昨年度に引き続き学会発表や論文投稿を通じて発表することを試みる。
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Causes of Carryover |
学会誌を印刷する会社から抜き刷り印刷代金の請求が当初よ予定よりも遅れたため、翌年度に持ち越しとなった。翌年度への繰り越し分については、この印刷費用の一部に充当する予定である。
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