2017 Fiscal Year Research-status Report
緊急通報の心理メカニズムの解明とコミュニケーションの改善方法の提案
Project/Area Number |
17K18232
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Research Institution | Kansai University of International Studies |
Principal Investigator |
塩谷 尚正 関西国際大学, 人間科学部, 講師 (00756231)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | コミュニケーション / 緊急事態 / 通信指令 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は緊急通報のコミュニケーションにおける心理的メカニズムを解明し、正確で迅速なコミュニケーションを成立させるための方法を提言することを目指す。本年度は、119番通報を受信する消防の通信指令室において調査を実施し、実際に生じる緊急通報のコミュニケーション事例の収集および解析を行った。 通信指令員にとって困難さを感じる通報事例を収集して、報告された通報事例に基づき、その内容に対して、通信指令業務の現任者や経験者とともに通報者と通信指令員の双方において働いていると考えられる心理メカニズムを検討した。その検討から見出されたことは以下のとおりである。通報者側は、ほぼ初めてといえる危機的状況に直面している者や、明確な危機ではなくても日常とは全く異なる状況にストレスを強く感じていることが多い。さらには、緊急事態に直面して先の読めない不安と、時間的切迫感から焦りが生じ、予想外の出来事による驚き、怪我や病気の悪化で恐怖を感じていることもある。そうしたストレスや強い感情により、認知容量の低下や視野狭窄が生じると考えられる。同時に、喚起された「不安」や「恐怖」を解消したい、という強い欲求に突き動かされて通報している場合もあり、そのような場合に通信指令員に詳細な聴取をされることは欲求不満となり、攻撃的言動に結びつくことが考えられる。さらに、状況に対するコントロール感の喪失や、責任感の回避の欲求から、聴取に対する不応答が生じることが考えられる。 こうした検討に基づいて、年度内に行われたシンポジウムで話題提供を行った。さらに翌年度の実証研究のための準備を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2017年度は、協力関係にある研究者および消防機関との関係をより強化すると同時に、実証研究に着手する準備段階としての事例データの収集と解析をすすめた。事例データの収集は実証的研究の計画の妥当性を高めるために必要な段階であり、また消防の実務者に協力をいただくために、その本来の業務を阻害しないように研究活動を進めた結果、進捗は当初計画よりもやや遅れた。しかしながらその成果として、次年度における実証研究の実現可能性を高めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
収集されたコミュニケーション困難な通報事例に基づく場面設定による、119番通報を模した会話実験を行う。実験参加者として主に大学生に募集をし、通報者役を割り当てる。実験協力者として通信指令員役に模擬通報に対する応答を依頼する。通報のためのシナリオ(場面想定)として、救急患者の発生場面における通報を設定する。実験参加者と実験協力者(救急患者役)を室内に配置し、救急患者役が体調不良に陥る演技をする。その状況下で実験参加者は、電話を使って通報し、実験協力者(通信指令員役)から聴取を受けて応答する。通報者役の行動の動画撮影と、音声録音を行う。行動指標として、動画と録音から、通報開始までに要した時間、通報開始から通報終了までに要した時間を測定する。また、救急患者役に対する「視線」「接触」の生起時間と頻度、「距離」「処置の適切さ」などを測定し、コーダー2名で算出する。音声を文字起こしして(業者に依頼)、伝達された情報の正確さと発話内容を指標化する。認知指標として、通報に関する知識量、通報中のコミュニケーション評価および感情、コントロール感(状況に適切に対応できるという主観的信念)を実験後に質問紙で測定する。 実験結果から、通報に要した時間および内容の正確さと、その他の行動指標や認知指標との関連性を分析する。記録された音声から発話内容もテキストマイニングによって解析する。実験の計画と実施と並行して、研究会や学会での発表の準備を進める。以上の研究実施に当たり、所属機関の倫理委員会の審査を受ける。
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Causes of Carryover |
協力機関との協調のために、当初計画よりも研究の進捗がやや遅く、そのために必要や経費も少なくなった。次年度には実験研究を実施するため、物品費や旅費などに使用する計画である。
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