2018 Fiscal Year Research-status Report
国際的な官民連携による先端科学技術ガバナンスの研究:ナノテクノロジー分野を事例に
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17K18239
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
川村 仁子 立命館大学, 国際関係学部, 准教授 (40632716)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 先端科学・技術ガヴァナンス / トランスナショナル・ガヴァンス / 官民パートナーシップ / AI / ナノテクノロジー / 大量破壊兵器(WMD) / グローバル・ガヴァナンス / 国際秩序 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度の前半は、2017年度に憲法学会で行った研究報告をもとに、科研費若手研究Bプロジェクトの2017年度の研究成果をまとめた論文「AIロボットをめぐるグローバル・ガバナンスの現状と今後の展望:EUを事例として」を2018年7月に『憲法研究』第50号において発表した。具体的には、AIを搭載したロボット(以下AIロボット)をめぐるグローバル・ガヴァナンスの現状と今後の展望を、EUの試みをもとに検討した。AIロボットの定義と分類を行い、AIロボットに関わる法的課題と、EUを中心に行われてきたヨーロッパでのAIロボットをめぐるガヴァナンスの試みを概説し、研究・開発とリスク管理の双方を両立させることができるガバナンスとして、官民パートナーシップ(Public Private Partnership)の枠組みを活用する有効性と課題について分析した。 また、2018年度の後半は、先端科学・技術ガヴァナンスの視座から、大量破壊兵器を用いたテロリズムやそれに対するグローバル・ガヴァナンス、ナノテクノロジーのトランスナショナル・ガヴァナンスに関する研究を行った。11月には松下冽立命館大学名誉教授の「越境暴力」研究会で、「拡散する暴力:大量破壊兵器の脅威とグローバル・ガヴァナンス」というテーマで成果を発表し、2018年度の研究成果をまとめた論文「大量破壊兵器を用いた『テロリズム』に対するグローバル・ガヴァナンスの試み:科学・技術ガヴァナンスの視座から」を、『立命館国際研究』31巻4において公表した。具体的には、破壊兵器(WMD)を用いたテロリズムに対するこれまでのグローバル・ガヴァナンスと現在行われている包括的なテロリズム禁止条約に向けての取り組みについて概説した上で、科学・技術のガヴァナンスの視座から、WMDを用いたテロリズムの脅威とそれに対するグローバルな取り組みについて検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は、これまで行われてきた科学・技術ガヴァナンスにおける官民パートナーシップ(Public Private Partnership)の成功・失敗の条件を分析するとともに、公的規範や非国家主体による自主規制といった重層的な規範に基づくガヴァナンスを試みているEUの先端科学・技術分野の管理を事例に、国際制度的側面から官民パートナーシップについて検討した。特に、EUにおけるAIの開発、利用、流通の管理をめぐるる官民パートナーシップや、科学・技術の軍民両用(いわゆるデュアルユーズ)に関わる、科学・技術を用いた大量破壊兵器(WMD)に関するグローバル・ガヴァナンスとそこにおける官民パートナーシップの可能性について分析を行うことができた。ただ、先端科学・技術ガヴァナンスに関するテーマが膨大であり、また、資料収集にも時間がかかったこと、海外調査として訪問およびインタビューを予定していた先方の事情により、2018年度の夏にヨーロッパの関連機関(欧州委員会、欧州保険局、欧州議会科学・技術オプションアセスメント委員会)を訪問することができなかった。可能な限り、バイオテクノロジーおよびナノテクノロジー戦略を中心とした先端・科学技術の管理に関する文献・資料を収集することはできたが、バイオテクノロジーとナノテクノロジーに絞って制度的側面から非国家主体による自主規制の「国際法規範性」ついて検証する時間がなかった。学会や研究会での国内外の研究者らとの討議を通じて、本研究の方向性を随時修正することで、研究の行き詰まりを回避することを試みる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、非国家主体を中心とした官民パートナーシップ(Public Private Partnership)に基づくトランスナショナル・ガヴァナンスがナノテクノロジーのガヴァナンスにおいても適しているか否かを検討する。すでに官民パートナーシップを法制度化しているEUにおけるナノテクノロジー分野のガヴァナンスの事例を中心に分析する予定であり、特に、ナノテクノロジーのリスクに対する10年計画(Nanosafety in Europe 2015-2025: Towards Safe and Sustainable Nanomaterials and Nanotechonology Innovations)作成時の非国家主体の役割に焦点を当てる。 2018年度と同様に、成果はシンポジウム、国内外での学会・研究会報告ならびに、雑誌投稿を通して公表する。なお、可能であれば、これまでの研究で収集した先端科学・技術分野の自主規制をリスト化し、ネット上で公表する。また、科学技術振興機構等のデータベースに貢献できる情報となるものを目指す。 現在、「国際秩序」をテーマとした書籍を出版する準備をしており、そこで本研究の成果を公表する予定である。また、本研究において構築できるであろう国内外の研究者ネットワークに「先端科学・技術と社会」をテーマとする出版企画への参加を呼びかける予定であり、最終年度には先端科学・技術と社会の関係について考察する体系的な成果の公表ができることを目指す。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では、国内では手に入らない資料の収集や研究ネットワークの構築のために、2018年の夏にヨーロッパでの調査を実施する予定であった。しかし、訪問およびインタビューを予定していた先方の都合により、ヨーロッパへの調査は2019年度に延期した。 使用計画としては、2019年度秋をめどに、ヨーロッパへ調査に行くさいの経費とする予定である。フランスのパリにあるパリ第1大学、欧州宇宙機関、国際商業会議所、およびヨーロッパ諸国の先端科学・技術系学会、関連企業、担当省庁を訪問し、先端科学・技術分野の官民連携に関する資料や、これまで非国家主体がEUや国連などの国際機構、およびサミットなどの国際会議で行なってきた意見具申・政策提言の一次資料などを入手する。そのさい、研究協力者らとともに現地で研究会あるいは国際シンポジウムを開催する予定である。また、2019年度あるいは2020年度に、研究協力者を日本に招聘し、国際シンポジウムを開催することも予定している。
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Research Products
(3 results)