2017 Fiscal Year Research-status Report
大阪漢学と近代企業家に関する研究―泊園書院と重建懐徳堂を中心として
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17K18250
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
横山 俊一郎 関西大学, 東西学術研究所, 非常勤研究員 (60759827)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 日本漢学 / 泊園書院 / 企業家 / 宇部興産 / 菊正宗酒造 / 五代友厚 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度の研究では、泊園書院出身の「企業家」のうち、長門国宇部地方の地主に注目し、彼らの思想および実践の連関性を考察するとともに、関西大学総合図書館の泊園文庫に所蔵された門人帳を泊園門人データベースとして電子化し、それらを各院主の時代ごとに整理した。 明治期の泊園門人である林仙輔・村田増太郎・紀藤閑之介・加藤亮吉は、化学メーカー宇部興産の創業者である渡辺祐策と多くの共同事業を手掛けたが、彼らは自己の利潤を追求する実業家というよりもむしろ地域での名声を追求する名望家であった。また、渡辺を含む彼らの事業活動は、宇部共同義会や宇部達聡会といった組織を軸に展開されており、それらを創設したのは長州藩家老福原家の家臣として幕末の動乱を生き抜き、維新以降はみずからの儒教教養と西洋近代との調和を模索した彼らの父親であることが明らかとなった。 泊園書院の門人帳には、門人名簿・成績表・受領簿・出席簿など様々あるが、これらのうち最も注目すべきは、藤澤南岳が院主であった明治期に作成された『生員勤惰表』と『応門簿』である。前者は門人の入退時期および成績推移を把握することができ、後者は門人の院外活動および帰省頻度を把握することができる。 なお、上記の『生員勤惰表』の明治24(1891)年9月分には、七等下に鴻池又吉(鴻池家の有力分家の子弟)、九等上に伊藤忠兵衛(伊藤忠商事の創業者)と杉村徳治郎(兄の嫁は五代友厚の娘)の姓名が見られ、さらに南岳の次男黄坡が主宰した泊園書院分院の『月謝領収簿』の大正6(1917)年分には、嘉納治郎右衛門(菊正宗酒造の創業者)の姓名が見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度の半ばから予期していなかった自著出版の準備に取り掛かったため、泊園書院出身の「企業家」のうち、備前国児島地方の地主の思想および実践を考察することができなかった。清文堂出版より刊行された拙著『泊園書院の明治維新―政策者と企業家たち―』は、東アジアの儒教教養人が本来〈思想家〉であると同時に〈実務家〉であったことを踏まえて、泊園書院の経世論が近世における「政策者」と近代における「企業家」の諸活動の中でどのように展開したのかについて明らかにするものである。その内容は本研究課題を設定するに当たっての経緯が理解できる構成となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
出版準備により考察が遅れた備前国児島地方の地主の思想および実践を明らかにすると同時に、泊園書院出身の「企業家」の中心的存在ともいえる商人層を考察対象としていきたい。その際、当該年度にその存在が明らかとなった泊園門人、すなわち大阪の鴻池家や杉村家、灘の嘉納家もその射程に入れる必要がある。また地方地主であり、かつ、大阪商人でもあった泊園門人として桃谷家を見逃してはならない。化粧品メーカー桃谷順天館を創業した桃谷政次郎は、出身地の紀州粉河で町長を務めるとともに地元の銀行の頭取になるなど、名望家的な「企業家」という意味においても注目するに値する人物である。
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Causes of Carryover |
備前国児島地方の地主の思想および実践についての考察が遅れ、結果的に現地調査のための旅費が少額にとどまったためであるが、この未使用分は次年度の新しい研究計画を遂行することによって消費される予定である。
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Research Products
(6 results)