2017 Fiscal Year Research-status Report
Reenactment of Traumatic Memory in the arts after 1980
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17K18269
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
石谷 治寛 京都市立芸術大学, 芸術資源研究センター, 非常勤講師 (70411311)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | トラウマ / 再演 / エイズ/HIV / アーカイブ / ドクメンタ / 記憶文化研究 / 現代美術 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は、パフォーマティブな要素をもった現代アートの流れを再検証するなかで、外傷の再演という課題を深めることができた。1970年代以降に活躍をはじめたアーティストの再演の方法について検証しながら、後続の美術家による現代的なアプローチを再検討した。 とりわけカッセルとアテネで開催されたドクメンタ14の視察は有意義であった。外傷記憶という主題を、17世紀の奴隷貿易、戦争や空襲、現代の移民問題、資源採掘や労働、精神医療、拷問、警察のアーカイブといった多様な欧州の歴史的文脈と個別な都市の歴史のなかで考察するものであった。カッセルという都市の欧州の歴史のなかでの位置づけと、アテネの近代化や、大戦以後の民主化のプロセス、新世界秩序のなかでのグローバル・サウスの役割の再考など、様々なトピックについて改めて考えさせられた。 さらにバルセロナ現代美術館での中東の紛争を背景にしたアーカイブを用いたアーティストの展示やマドリードのレイナ・ソフィア美術館での1980年代以降のコレクションなど、1980年代以降のアートと政治やHIVに関わるアート活動についての調査を行った。 とりわけ国内では、1990年代のダムタイプの作品の資料やその周辺で展開したエイズをめぐる活動についての研究を、資料調査とインタビューを通して大きく進めることができた。上記のテーマについてIAMASで行われたシンポジウムや、トークの中でで部分的な発表を行ったが、国外での発表も含めて、いっそうの成果の公表については今後の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
勤務先の芸術資源研究センターにて文化庁からの助成でダムタイプの個別プロジェクトに関する資料調査や聞き取りについては、多くのスタッフの協力を得ることができ大きく進展した。しかし文化庁の助成では、資料の収集とアーカイブ化という課題が優先されたため、資料の考察やまとめについては今後の課題として残されており、本研究課題では、そうした課題を補う作業を進めたい。 エイズをめぐるアート活動の調査という課題も然りである。当時の資料のデジタル化や聞き取りに関してはテルモ現代美術助成財団の支援もあり、また当事者の協力を得ることもできたため大きく進めることができたが、資料のまとめやその考察と公表に関しては2018年度の課題としたい。マドリードの調査によって、ラテン・アメリカ圏も含めたエイズとアートをめぐる1980年代以降の状況についての知見を深めることができたので、北米の状況とあわせて再考したうえで研究を深めていく必要がある。 「外傷記憶の再演」という本研究課題は、ドクメンタ14が、歴史的な外傷記憶を主題にしたアーティストのパフォーマティブな活動に大きく焦点をあてて展開されていたことを考えるに、きわめて喫緊の課題であることを確信できる。視察の成果を京都芸大や他の大学の学生に向けたレクチャーというかたちで公表したが、現在の状況に関する考察や論考は十分でなく、今後整理しながらまとめていく必要があると考えている。時評というかたちで公表する余裕はなかったが、今後腰を据えて考察の作業を進めていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、1980年代以降の芸術の状況について、フランスのメッスで開催されているダムタイプ展の視察を行うとともに、当時、同時期の京都で展開したエイズとアートに関する活動についての資料整理を行い、調査の成果発表の機会をもつ。そのためにダムタイプやエイズにまつわる活動を行ったアーティストたちへのインタビューを進めていく。欧米でのエイズとアートに関わる状況に関する昨年度の調査も踏まえて、日本での取り組みについて資料展を企画するとともに、世界的な文脈のなかに位置づけたい。 そうした状況を踏まえたうえで、欧州の移民などをテーマにした展覧会の調査を続け、視覚芸術における歴史的記憶や外傷についての研究も進める。アルジェリアを出自とするKader Attia、イラクから移民したHiwa Kなど、国際芸術展の文脈で活躍の著しいアーティストが欧州の美術館で発表のぎ会を多くもつようになっている。そうした状況について改めて考察を進めたい。 また本研究は、ダムタイプに関する研究を発展させて、現代のメディア社会のなかでの、アートと外傷の問題について捉え直すことになる。近年メディアアートの再制作・再展示が活発化するなかで、フランスでもキネティック・アート以来の伝統から、メディアアートの歴史の研究が進んでおり、回顧展や現代のメディア環境をテーマにした企画展の開催が著しい。他方で自然やヒーリングが主題になることも多い。とりわけ欧米で顕著なのは、AIやロボットをめぐる企画展である。人工知能に外傷体験はあり得るのか。そうした課題も含めて、現在のアートと人工知能についての、国際的展開も視野にいれながら、外傷をめぐるアートについての調査と考察を進める必要がある。
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Causes of Carryover |
2018年には2017年度の成果発表を東京で行う予定である。次年度使用額を、東京との旅費にあてたい。
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