2019 Fiscal Year Research-status Report
近代日本におけるレクチャー・コンサートの導入:仏・独の比較と音楽政策を視点として
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17K18313
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Research Institution | College of Nagoya Women's University |
Principal Investigator |
白石 朝子 名古屋女子大学短期大学部, その他部局等, 講師 (30758181)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アンリ・ジル=マルシェックス / アルフレッド・コルト― / レクチャー・コンサート |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ジル=マルシェックス(Henri Gil-Marchex, 1894~1970)による「音楽解釈の講座」(1931)に着目し、その内容を分析することで、近代日本における西洋音楽受容と演奏会の在り方を視点として捉え直すことを試みた。 分析にあたっては、彼の師であるコルト―(Alfred Denis Cortot,1877~1962)が1924年からエコール・ノルマル音楽院で定期的に行っていた音楽講座との比較・検討を行い、その結果、彼らの引用文や比喩表現等には、共通の主旨・内容が提示されていたことが明らかになった。 その一方で、コルトーはフランスで芸術の在り方、そして演奏法に主眼をおいた講座を展開したことに対し、ジル=マルシェックスは、新しい曲目を日本に知らせる意義、また作曲された歴史的背景に目を向けたといえる。聴衆が育っていない当時の日本において、この試みは新しいものであったといえるだろう。また、ジル=マルシェックスは、日本固有の文化の伝統を重要視することが大切であることも述べ、西洋音楽の受容に夢中であった日本人の聴衆に対して、気づきを与えようとしたともいえるだろう。 彼らが単なるコンサートではなく、講演を行った背景には、「音楽解釈」を重要視し、それをいかに伝えるかというコルトーやジル=マルシェックスの模索があったといえよう。 コルトーの来日は1952年まで待つことになるが、ジル=マルシェックスは、1931年に彼の教授法を日本にも伝えようとした。そして、聴衆に対しては、演奏だけでなく芸術の理解を促す試みを行っていたといえるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は体調の変化により、当初予定していた海外での資料文献調査が行えなかったため、クロイツァーのレクチャー内容の研究まで至らず、仏・独の比較を行うことができなかった。その一方で、ジル=マルシェックスの活動について掘り下げて分析することで、近代日本における西洋音楽受容と演奏会の在り方を視点として捉え直すことができたため、今後も研究を続けたい。
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Strategy for Future Research Activity |
産休・育休に伴い研究を中断することとなるが、再開後のために準備を整えたい。具体的には、これまで収集した1920年代、30年代のジル=マルシェックスの講演資料等の整理を続け、クロイツアーやコルトーの関連資料を読むこと、また日本人ピアニストの活動についても目を向けることで、近代日本における音楽受容の一端について考えたい。
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Causes of Carryover |
今年度は、妊娠・出産のため海外調査や学会へ出向くことが難しく、旅費および人件費・謝金が発生しなかった。今後は、資料請求費や研究成果発表の機会をつくるための費用として使用したい。
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