2017 Fiscal Year Research-status Report
食中脂肪酸による情動・うつ様行動修飾の末梢-中枢神経回路メカニズムの解明
Project/Area Number |
17K18402
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
山田 大輔 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第四部, 科研費研究員 (10621302)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 多価不飽和脂肪酸 / うつ様行動 / ドーパミン / 側坐核 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者らは先行研究において、摂取する餌に含まれるω3とω6という二種類の多価不飽和脂肪酸の量比(3:6値)が条件性恐怖記憶の強さを修飾する因子であることを明らかにした。本研究では、恐怖以外の情動性行動であるうつ様行動に対する3:6値の影響、またその神経回路メカニズムを明らかにすることを目的として検討を進めている。 まず、我々の先行研究において恐怖記憶を修飾することがわかっている3:6値(0.96)を有する餌(高3:6値餌とよぶ)を、雄性C57BL/6Jマウスに6週間給餌した。対照餌の3:6値は0.14である。給餌6-7週間目に、うつ様行動の評価系として広く用いられている強制水泳試験を行い、マウスが不動、クライミング、スイミングを示す時間の長さを計測した。その結果、高3:6値餌給餌マウスでは対照餌給餌マウスに比べ、有意に不動時間の短縮がみられた。また、クライミングの顕著な増加が認められた。一般に、クライミングには脳内モノアミンの関与が報告されていることから、HPLCによって脳内局所におけるモノアミンの定量を行なった。その結果、ドーパミンとその代謝物量が側坐核において増加していること、他の脳領域(扁桃体、内側前頭前野、海馬)では変化は見られず、セロトニン、ノルアドレナリン量はいずれの脳領域においても変化しないことが明らかとなった。 上記の結果をうけて、側座核にドーパミン受容体アンタゴニストを微小投与したところ、D1およびD2受容体阻害薬(運動量の低下がない濃度で投与)はともに、強制水泳試験における高3:6値餌の効果に拮抗した。これらの結果は、うつ様行動に対する多価不飽和脂肪酸の作用に側座核のドーパミン神経系の賦活が関与する可能性を示しており、多価不飽和脂肪酸の抗うつ様作用のメカニズムとして新たな知見を加えるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究においては、予備検討において見出していた高3:6値餌によるうつ様行動の減少が安定的に再現される現象であること、その作用メカニズムの候補としてドーパミン神経系の存在を示した。また、脳内のどの領域においてドーパミン系が関与するのかについても脳内モノアミン分析、脳内への薬物局所投与により明らかにした。これらの結果は、本研究課題において解析対象とする神経回路を同定するために必須のものであり、今後研究を進める上で当初の計画に大きな変更が必要ないことを示すものであった。したがって、現時点ではおおむね当初の計画通りに進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、恐怖記憶についての先行研究で行ったのと同様に餌中の3:6値を調整し、今年度の研究で得られた抗うつ様作用においてもω3とω6のバランスが重要なのか、またはω3単独の摂取量が重要なのかについて検討を加える。 また、多価不飽和脂肪酸によるうつ様行動修飾の物質的基盤(ドーパミン神経系)と関連脳部位(側座核)が同定できたことから、恐怖記憶の修飾において関与が認められている扁桃体内のドーパミン神経系、またカンナビノイド神経系と抗うつ様作用の関係についても検討する予定である。具体的には、扁桃体へのドーパミン受容体阻害薬の微小投与、側座核へのカンナビノイド受容体阻害薬の微小投与を行う予定である。 さらに、多価不飽和脂肪酸による抗うつ様作用に関連する神経回路(側座核を中心とした)におけるシナプス伝達修飾の可能性について、特にドーパミンに注目して検討を進める予定である。
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Causes of Carryover |
研究代表者が平成30年度に所属機関を異動することが決まり、研究計画を遂行するためには異動先研究機関で新たに機器備品を購入することが必要となったため。具体的には、神経回路レベルの検討を行うにあたり、電気生理学的実験に不可欠な機器を購入するために使用する予定である。
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