2017 Fiscal Year Research-status Report
高速高精度一分子観察による結晶性糖質分解機構の解明
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17K18429
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Research Institution | Okazaki Research Facilities, National Institutes of Natural Sciences |
Principal Investigator |
中村 彰彦 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 岡崎統合バイオサイエンスセンター, 助教 (20752968)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | キチナーゼ / セルラーゼ / 一分子観察 / キチン / セルロース |
Outline of Annual Research Achievements |
セルロースやキチンはそれぞれ植物細胞壁や甲殻類の外骨格の主要構成多糖であり、バイオマス資源として注目されている。これらは天然でセルロース加水分解酵素(セルラーゼ)及びキチン加水分解酵素(キチナーゼ)により分解されている。2種の酵素の内でカビの一種Trichoderma reesei由来セルラーゼ(TrCel7A)およびバクテリアの一種Serratia marcescens由来キチナーゼ(SmChiA)はセルロース及びキチン結晶上を運動しながら分解する分子モーターであることが明らかになっている。しかしSmChiAはTrCel7Aの約10倍程度速い運動速度を示す。そこでより分解効率の良いセルラーゼ、キチナーゼを作成するためにこれらの酵素の運動機構を解明することを目的とした。 運動機構の解明のためにはステップ運動を解析する必要がある。キチナーゼ、セルラーゼの生成物は2糖であり、その大きさは1.04 nmである。つまり想定されるステップサイズは1 nmであり、非常に高い精度が必要となる。そこで0.5 msの時間分解能で0.3 nmの位置決定精度を達成できる、金コロイドと全反射暗視野顕微鏡を用いた観測系を用いてキチナーゼを観測した。ステップサイスは前進運動と後退運動のどちらとも1.1 nmであった。停止時間の分布から得られた前進運動の反応時定数は2.9 msと23 msの2つであり、重水環境中で3.5倍に延長された短い時定数が加水分解に相当すると考えられた。対して後退運動と復帰運動の時定数はほぼ同じであり前進運動への偏りはなかった。前進運動した際には加水分解可能な複合体を形成し、生成物を乖離することで後退運動した際と同じ状態になると考えられる。すなわち速い加水分解により前進運動へのバイアスを生み出していると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通りキチナーゼに金コロイドの固定化をする位置の検討が達成でき、1 nmのステップ運動を観測できる精度を達成することができた。また金コロイドのキチンへの非特異的吸着を減少させるための表面処理方法も開発できた。それによりキチン分解酵素のステップ運動を直接観測することができ、前進と後退運動のステップサイズとそれぞれの時定数を解析することができた。そしてキチナーゼの加水分解が速いこと、及び結晶表面からキトビオース単位を引き剥がす反応が遅いことがわかった。加えて一方向性の運動を達成するために速い加水分解が重要であることも明らかにできた。ただしキチン加水分解酵素がどのように基質のスライド運動を行っているのかについて構造的知見から解析した例はなく、特に後退運動および前進運動の加水分解後での停止中にキチン分子鎖とどのような相互作用をしているのか不明である。その為キチン分子鎖の脱結晶化に機構の議論が難しい状態である。 一方セルロース分解酵素については運動の観測は可能であったが金コロイドの揺らぎが大きくステップ運動を検出することができなかった。こちらについては金コロイドの固定位置の改善等が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
キチナーゼの運動の反応時定数の解析ができ、前進運動状態と後退運動状態で時定数がほぼ同じであったことから自由エネルギー状態にほとんど差がないことがわかった。前進運動はキチン分子鎖をキチン結晶方面から剥がす脱結晶化の反応が必要であり、後退運動ではキトビオース単位の結合サイトからの乖離と結晶表面への再結合(再結晶化)が起こると推定される。前進運動後のミカエリスコンプレックスの構造はすでに明らかになっているが、後退運動後および前進運動の加水分解後での停止中にどのような構造で安定な結合状態となるのか不明である。その為結合状態の変化により脱結晶化に十分な結合自由エネルギーが得られるのか推定することができていない。そこで平成30年度はSmChiAとオリゴ糖基質の共結晶化により、運動の中間状態や後退運動状態での基質酵素複合体のX線結晶構造解析を行う。これにより得られた構造を用いて分子動力学シミュレーションにより結合エネルギーの算出および得られた構造で安定な結合状態を保てるのか解析を行う。そして脱結晶化メカニズムの解明を行う。 セルラーゼについては金コロイドの固定方法の改良を試み、ステップ運動を観測するのに十分な精度が達成できる条件を見つける。可能であればステップ運動の観測と反応時定数の解析を行う。基質と酵素の構造が似ているキチナーゼとセルラーゼは同じメカニズムで運動していると考えられる。セルラーゼの解析ができなかった場合は、キチナーゼの運動メカニズムからセルラーゼがなぜ遅いのか考察する。
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[Journal Article] Rate constants, processivity, and productive binding ratio of chitinase A revealed by single- molecule analysis2018
Author(s)
Akihiko Nakamura, Tomoyuki Tasaki, Yasuko Okuni, Chihong Song, Kazuyoshi Murata, Toshiya Kozai, Mayu Hara, Hayuki Sugimoto, Kazushi Suzuki, Takeshi Watanabe, Takayuki Uchihashi, Hiroyuki Noji and Ryota Iino
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Journal Title
Phys. Chem. Chem. Phys.
Volume: 20
Pages: 3010-3018
DOI
Peer Reviewed
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