2018 Fiscal Year Research-status Report
「老い」の環境決定と福祉都市の規範に関する社会倫理学的研究
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17K18455
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Research Institution | Hokkai School of Commerce |
Principal Investigator |
見附 陽介 北海商科大学, 商学部, 講師 (10584360)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 哲学 / 倫理学 / 建築学 / 障害学 / 老年学 / 社会学 / 福祉 / 都市 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「(A):「老い」が生物学的な絶対的プロセスではなく、身体を取り巻く環境との機能的関係性によって社会的に構成されるものであることを解明すること」、と「(B):解明された見地から今日われわれが依拠している社会規範をもう一度問い直し、高齢化社会においてあるべき福祉都市の規範を基礎づけること」、の二点にある。本年度もこの二つの目的に即して研究を行った。 (A)に関しては、昨年度の研究成果を用いて「老い」の社会的構成を理論的に基礎づける際に検討すべき論点を洗い出した。具体的には、まず「老齢」の社会的構成に関わる社会学の先行研究を調査し、高齢者の置かれる社会状況に関する社会的構成の理論は論じられても、「老い」そのものの社会的構成の問題が社会学領域においてほとんど検討されていないことを確認した。また老年学とりわけ日本ではほとんど論じられていないいわゆる「環境老年学」に関わる既往研究も調査し、そこにおける研究の蓄積が「老い」の社会的構成の理論にどのように寄与しうるかを検討した。 (B)に関しては、本年度は障害学の議論と高齢者福祉・ケアの議論を比較し、両者に共通する社会状況および規範的理念の検討を行った。具体的には「障害の社会モデル」と高齢者福祉、とりわけいわゆる「地域包括ケアシステム」をめぐる諸論説を比較することで「老い」の社会的構成という理解に立った規範モデルの可能性を明らかにした。またさらに同時にこの規範モデルを、今後の日本社会の方向性を示すと思われるコンパクトシティの理念に埋め込まれている「都市の論理」と突き合わせることにより、あるべき福祉都市の規範の可能性を探った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に基づき理論の分析と規範モデルの検討を適宜実施した。計画Aに関する理論的研究は、学会報告として一定の形に実現された。計画Bに関する規範モデルの研究も雑誌論文として一定の形に整えられた。これらの成果は、本年度において遂行された研究の一定の進捗を示すものとして評価されうると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究としては、まず本年度の研究によって明らかになった「老い」の社会的構成に関する理論的蓄積の不足部分を独自の研究を通じて補う必要があるが、その際の重要な論点は空間老年学から取り入れられることになる。ただし、そのためには環境老年学において論じられている環境要因のうち生物・医学的側面と社会的側面の切り分けを行う必要があり、これ自体は社会学の観点から行う必要がある。次に、規範的側面から、障害の社会モデルと福祉の生活モデルを統合した視点を構築することが必要になる。これは本年度の研究によってある程度達成されてはいるが、社会機能の不全状態に対する社会的構成の視点、つまり上記の「老い」の社会的構成の観点から再点検し、より実践に方向付けられた形に精緻化される必要がある。次年度においては、以上を踏まえて、環境にまつわる理論的視点と福祉に関する規範的視点の二つの統合に向けて、具体的な作業が始められることになる。
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Causes of Carryover |
今年度は論文執筆の時期が2月から3月の年度末となったため、この論文執筆のための資料として購入した図書の購入費などの会計処理が次年度に移ることになり、次年度使用額が生じた。しかし、次年度において直ちにこの費用は会計処理され、次年度予算も計画に従い適切に使用される。
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Research Products
(2 results)