2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K18471
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Research Institution | Kisarazu National College of Technology |
Principal Investigator |
小谷 俊博 木更津工業高等専門学校, 人文学系, 講師 (80708909)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | 発達障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、発達障害者への脳神経倫理学的検討として、道徳的人格モデルについて研究を行った。研究実績としては、発達障害者の道徳実践主体としての評価を行うために、論文「発達障害の過剰診断について」を発表した。当論文は、発達障害者の道徳実践における困難を検討するに際して、まずは誰が発達障害者なのかを確定するにあたり、その判断基準として用いられる『精神疾患の診断と統計マニュアル第五版』(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition) に、過剰診断の問題が潜んでいることを、アレン・フランセス、レイチェル・クーパーらの指摘をもとに明確化した。アラン・フランセスは、製薬業界との関係性のもとに、安直な診断が下されやすい状況が生み出されつつあることを指摘し、過剰診断により、不必要な投薬治療が行われ、問題がより悪化する危険性を指摘している。レイチェル・クーパーは、診断基準の内容が、必ずしも十分な科学的根拠に基づくものではなく、精神科医の診断の個人差が大きいことを指摘している。発達障害の問題が広く知られるようになり、その対応が迫られる中で、過剰診断の問題は決して簡単なものではない。本研究は、発達障害者に対する包括的で適切な社会システムを提案することを最終的な目的としている。しかし、その出発点の段階で、過剰診断が行われる可能性があるという認識のもと、診断基準を鵜呑みにするだけではなく、さまざまな報告事例をもとに発達障害者の問題とは何かを見極めなければならない。この点を明らかにしたことに本研究の意義があると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
発達障害の人格モデルの構築について、基本的な枠組みを依拠するチャーチランドの議論への理解、およびその周辺議論の調査が遅れているため、モデルの構築という段階にまで到達できていない。発達障害者の評価については、過剰診断という問題に光を当てることで、検討すべき対象とは何かを注意して見極める必要性が認識できた点は、新たな検討課題であると同時に、人格モデルを構築する上での予備的研究を行えたと考えられるが、基本的な道徳的主体としての人格モデルの構築が遅れているため、この点で遅れが見られる。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、道徳的主体の人格モデルについて、チャーチランドの議論をまとめることを中心に研究を進める。具体的には、P.S.Churchland and C.L.SuhlerのAgency and Control: The Subcortical Role in Good Decisionsと、当該論文に対する討議を中心に検討しながら、彼女が以前に打ち立てた人格モデルが、現在どのような展開をみせ、どのように評価されるべきなのかを明確化し、その上で、発達障害者の道徳的主体としての評価に適切なモデルの提案を行いたい。さらに、本務校での発達障害の問題とその対応、さらには近隣の高専の状況等も調査を進めながら、発達障害者が直面している問題を具体的に明らかにし、過剰診断の問題を考慮しながら、どのような社会システムの構築が望ましいのか検討していく。具体的には、合理的配慮という言葉で呼ばれる対応が、少なくとも教育の現場において、どのような形でなされるのが適切であるのか、そしてそれに応じて、教育システムがどのようなものであるべきかを検討する。
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Research Products
(1 results)