2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K18472
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Research Institution | National Institute of Technology, Kumamoto College |
Principal Investigator |
西村 勇也 熊本高等専門学校, 制御情報システム工学科, 准教授 (60585199)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 楽器音響 / 音楽音響 / 放射指向特性 / バイオリン / 駒 / 魂柱 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は音響工学的観点から、バイオリン職人の技術継承を目的としている。バイオリンの製作・調整には1600年代からイタリアのクレモナを始めとする世界各地の工房で培われてきたノウハウにより、種々の手法により受け継がれてきた。 1978年にL.Cremerらの研究によってAntonio Stradivariを代表とする歴史上の名匠が作った銘器は鋭い指向特性を持つことが明らかになった。銘器とされるバイオリンの音響特徴として、これまで表裏板の固有振動やニスの調合、f字孔のエアートーンなど多岐に渡る研究がなされているなか、未だ銘器を生む製作方法が確立しておらず、職人は日々試行錯誤を重ね製作せざるを得ない。 職人は製作と同時に既存の楽器を調整するスキルを身に付ける必要がある。調整作業は多岐に渡り、奏者の依頼も様々であるなか、駒と魂柱のバランス調整こそが職人の腕が試される調整のひとつであると言える。このバランス調整如何により楽器から放射される指向特性に大きく影響を及ぼすことが解った。つまり、調整により銘器が模造品以下の放射特性に成り得ると共に、銘器を凌ぐ作品を製作する潜在的可能性を有していると言える。 本研究は駒と魂柱のみの調整による、指向特性変化の相関関係を明らかにすることをターゲットとしている。初年度の実績として、放射特性の視認性を向上させるための3Dビューアの開発及び、3台のバイオリンにおいてCTスキャンを実施し、職人による調整前後の駒・魂柱の移動度の定量化及び、実演奏時の空間放射特性を測定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書の研究実施計画に基づき、本研究は3年間で数十台のバイオリンについて調査し、バイオリン職人の調整による指向特性の定量的な指針作成を目標としている。そのために研究計画を以下の研究サイクルで取り組んでいる。 (1)バイオリンの筐体・駒・魂柱のX線CT測定により寸法・位置関係を明らかにする。 (2)理論計算によって楽器の共振周波数の解析を行う。 (3)無響室でのバイオリンの実演奏音収録により空間放射特性(指向性)を測定する。 (4)バイオリン職人による駒と魂柱のバランス調整を実施する。 (5)調整後のバイオリンに対し研究手順(1)~(3)を再度行い指向性の変化を解析し、調整による位置関係と指向性の相関指標を作成する。 初年度は既に3台のバイオリンによる研究サイクルを終えている。しかし、当初予期していなかった事として、実演奏時の放射特性においてアマチュア奏者とプロ奏者で変化することが確認できた。これは、プロ奏者は自身の使用する楽器以外においても楽器の特性を瞬時に把握することができ、発せられた演奏音を聞き、演奏法をフィードバックし、楽器の「鳴り」を変化させ最良の演奏音へと改善することが可能であると考えられる。このことから、初年度の実演奏音測定時にはプロの演奏家に依頼し、無響室での放射音測定実験を行って頂いた。これにより謝金が発生している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方策として、実演奏時の演奏者については上述した通りプロの演奏家により行う事とする。また、CTスキャンを用いた駒・魂柱の移動度の測定法の変更を予定している。当初の研究実施計画では、熊本県産業技術センター保有のX線CT検査器を用いる予定であったが、移動度を測定することが困難であり当初予定より解析時間を要したことより、本年度は株式会社RPVの協力を得て形状変化を視覚的に確認可能なビューア表示を依頼する予定である。 さらに測定対象楽器をこれまでは比較的安価な楽器を所有者から借り受けていたが、今年度は歴史的銘器をレンタルし、同様の実験を行う予定である。これは相関指標を作成する上で、安価な楽器と銘器との違いの有無を明らかにするためである。この結果から、異なる相関関係が得られた場合は、更に理論計算を進めて共振周波数の解析を行う必要があると考えている。このため今年度は楽器レンタル費が当初予定よりも増額となる予定である。
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Causes of Carryover |
設備備品費で計上していた多チャンネルオーディオインターフェースの規格が合わず、購入を見送ったため次年度使用額が生じている。また、国内・国際学会への参加を見送った事で同様に次年度使用額が生じた。 翌年度請求分との合計金額において、今後の研究の推進方策で述べた通りX線CT検査の民間委託と歴史的な銘器をレンタルするレンタル費として使用する。
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