2017 Fiscal Year Research-status Report
Fundamental study on religious symbiosis structure in Sri Lanka.
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17K18473
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Research Institution | The Nakamura Hajime Eastern Institute |
Principal Investigator |
釈 悟震 公益財団法人中村元東方研究所, その他部局等, 副総括研究員 (80270536)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 宗教協調 / 人類平和 / 宗教間和合 / 宗教と民主主義 / 宗教と自由 / 宗教と民主主義の価値 / 慈悲と愛と寛容そして共生 / 生と死と安穩 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はスリランカ社会が長きに亘り形成してきた寛容精神の現代的な意義を再発見・再評価することにある。しかしこの寛容精神に支えられた社会伝統は近代の植民地支配やタミルゲリラとの激しい戦闘により、久しくスリランカ社会から影を潜めた感が否めなかったが、2009年の内戦の終結以後、徐々に高まりを見せつつあるように思われる。本研究には、その精神伝統の復興を支援するという副次的な効果も念頭にある。特に釈悟震が長年研究してきた「パーナドゥラ論争」は、スリランカに於いてすら忘れられかけていたものであるが、釈の研究の働きかけで現地の研究者もその価値に気づき、再評価するに至ったという経緯がある。同様に、スリランカにおけるイスラムは早くも7世紀にはコロニーが確認され、以来、仏教、キリスト教との平和的な共存の伝統を維持してきた。この間、他地域に見られるような武力や移民政策などによるイスラム支配の確立-それは同時に他宗教の弾圧・消滅にもつながる事であるが―といった事実が全くなかった。この事実は、イスラムが伝播した東南アジアや中央アジア、更にはインド亜大陸においても見出せない。なぜスリランカのイスラムのみが、他の地域とは異なりイスラム絶対支配社会に至らなかったのか?また一般にイスラムにおいて、仏教徒はカーフィル(多神教徒)として忌避され、排除の対象にさえなるにもかかわらずスリランカのイスラムは、仏教と平和的共存、共助の関係を作り、他地域のような宗教対立や紛争の事例は殆ど見られないのか?研究協力者と共に、この点に注目し、スリランカでは、なぜイスラムは平和共存社会構築へと進み得たのか、そこには何かそれを可能にする宗教思想としてのイノベーションがあったのかを究明する。以上の「研究の目的・実施計画」に従って当該の目的と計画を達成すべく基礎資料収集を着実に進め本研究の核心に迫る要因を大きく進捗させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「パーナドゥラ論争」に代表される仏教とキリスト教の宗教対話の全貌を明らかにするために、現地調査や資料収集をスリランカの名門Peradeniya大学やRuhuna大学の協力を得て行う。特に、Peradeniya大学の仏教学部からは、Muwaetagama Gnanananda教授以下、全面的な支援を取り付けており、夏季と冬季の二回同大学の講師陣の協力の下に、パンチャ・マハヴァダヤ(Pannca Mahavadaya:五大論争)と呼ばれるバッデガマ(Baddegama)、ワラゴーダ(Waragoda)ウダンヴィタ(Udanvita)ガンポラ(Gampola)パーナドゥラ(Panadhura)の各論争について資料を収集する。これらの論争は、「パーナドゥラ論争」以外は、スリランカでも殆ど知られることがなく、その資料収集は現地人スタッフの協力を仰ぎつつ行う。そこで、これらの歴史に埋もれた事実の発掘を中心に長期に及ぶ現地調査を行う。具体的にはスリランカの国立公文書館やPeradeniya大学・Kelaniya大学・Colombo大学・Ruhuna大学が所蔵する資料やそれぞれの開催地における現地での聞き取り調査を行う。以上の目的と計画諸般を実行すべく現地調査を行なう諸般の周辺の基礎資料収集への大きな一因を得ることが出来た。なお上記の施行の一環として、平成30年1月3日から4日、インド国・シュラットにおいてインド政府主催の国際学会で招聘され、出席にて研究発表を行なうと同時に、韓国国立ソウル大学図書館並びに宗教学専門の識者と共に本研究課題を解明すべく資料調査を行ない、当大学の教授からの研究指導を得るなど、本研究の一端を加えることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
スリランカの前世紀において激しくぶつかりあったパーナドゥラ論争を始め、五大論争地の調査研究やColombo論争の調査を行い、埋もれている資料、およびPeradeniya大学のスタッフの協力を求めてColombo大学や国立公文書館やマスメディア各社などが所蔵する資料の閲覧や調査・資料収集を行う。さらにその論争が起因となり世界的な仏教復興運動(Pali仏教聖典協会の創設など)、サルボダヤ協会へと連なっていった思想的な背景や運動の経緯を解明する。仏教徒中心のシンハラ人と、少数派でヒンズー教徒中心のタミル人の間に深刻な亀裂を生んでいる現在スリランカ人が平和社会の構築という社会的・政治的重要課題に対してその解決策を歴史の中から見出すための基礎資料の提示となるように本研究成果をスリランカ人に向けて英語で発信するため、シンポジューム等をPeradeniya大学スタッフの協力を得て開催する。他方、研究協力者と共にスリランカのイスラム社会の歴史や文化の現地調査を行う。またKandy地域のムスリムと仏教徒との共存関係を調査しその現状や問題点についても聞き取り調査する。スリランカ・イスラムの権威L.Devaraja博士はじめ関連の研究者との密接なネットワークの構築に努める。現代社会における宗教問題に関する研究論文や啓蒙書さらにはマスメディアによって、現地の諸宗教共存の思想やその現実展開の意味を広く世界に発表するように努める。一方、研究協力者と共に、ジャヤワルデナ研究はジャヤワルデナ記念館の協力を得て、その資料の分析も行い彼の寛容思想形成について検討し成果は学会や一般教養雑誌などで発表する。この他この宗教論争で勝利したとされる仏教側にはインド論証学の伝統がいかなる形で関わっているかについてインド論証学・論理学研究者の協力を得ることにする。
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Causes of Carryover |
そもそも本研究は、スリランカの前世紀において激しくぶつかりあったパーナドゥラ論争を始め、五大論争地の調査研究やColombo論争地などへの調査を行い、埋もれている資料、およびPeradeniya大学のスタッフの協力を求めてColombo大学や国立公文書館やマスメディア各社などが所蔵する資料の閲覧や調査・資料収集の為に数回に亘ってフィールドワークにより当該の課題解明を目指すものであったが、当該科研費の内定から研究費着金の時期が当年度8月末頃にずれ込んだ結果により、諸般の事情が生ずることに従って現地への渡航が不可能となったのが大きな理由である。次年度には当初の研究計画通りに渡航などを含めた当該研究課題の解明に一層の拍車を掛けるように全力で取り組む。
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Research Products
(2 results)