2018 Fiscal Year Research-status Report
Study on the methods of Japanese Art History, Western Art History and Natural History in the nineteenth century
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17K18474
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Research Institution | Tsuru University |
Principal Investigator |
加藤 弘子 都留文科大学, 文学部, 非常勤講師 (70600063)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉澤 早苗 東京藝術大学, 美術学部, 講師 (00600719)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 日本美術史 / 西洋美術史 / 美術史 / 自然史 / 鳥学 / 分類学 / 標本 / 進化思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は自然史の方法について、鳥学を対象に研究を進めた。 19世紀末に大英博物館で開催されたウィリアム・アンダーソン(William Anderson)のコレクション展「中国・日本絵画展(The Exhibition of Chinese and Japanese Paintings)」(1888年)に協力したイギリスの鳥類学者ヘンリー・シーボーム(Henry Seebohm)『日本帝国の鳥類(The birds of the Japanese Empire)』(1890)を中心に、19世紀の日本鳥類目録を調査し、〈種 species〉〈亜種 subspecies〉の記載と分類について分析した。シーボームは種分化の必要条件として地理的隔離を重要視した最初の鳥類学者であるが、その柔軟で細分主義的な命名についてはアメリカのスミソニアン協会に勤めていたスタイネガー(Leonhard Hess Stejneger)が厳しく批判するなど、19世紀の命名法と分類には混乱と変遷が確認できる。 近年の標本史研究では、標本に付されたラベル情報を精査し、採集時のノートと管理台帳との照合によって採集時の情報を復元し、命名の基準とされたタイプ標本の特定をも可能とする地道な研究が重ねられている。美術作品の場合も来歴不明で制作時や収蔵時の情報がわからない事例があり、自然史における標本と同様に、目録への最初の記載と情報管理、継続した研究が重要である。 西洋美術史の方法については昨年度の成果と課題を受けてイギリス調査を実施し、日本美術史についてはウィリアム・アンダーソンコレクションの比較対象として19世紀にイタリアで形成された日本絵画コレクションに注目し、代表が分担者を務める他の科研と連携して調査を行った。また、万国博覧会の公式文書に含まれる日本美術史の記述を探索したほか、流派概念と様式に関して円山派の調査を継続した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
専門外の鳥学に関する研究は予想どおり難航したが、日本鳥学会全国大会では標本をテーマとした自由集会に参加し、専門の研究者に有益な助言を受けることができた。 標本も美術昨品と同じく交換や売却によって所蔵先から移動することは想定していたが、19世紀の鳥類目録には標本所蔵先の管理番号は表記されないため、シーボームが基準とした標本を特定するには長い年月をかけた研究が必要であるとわかった。研究実績の概要で既に述べたように、この結果は、標本や作品の目録への最初の記載と情報管理、そして継続した研究の重要性を示してくれた。 研究打合せは分担者・研究協力者と各2回、研究報告会および資料調査は国際美術史学会コロキウムにあわせて1回開催した。研究報告会では研究対象の範囲について反対意見が出たが、本科研が探索的性質の強い、あるいは芽生え期の研究計画も対象としていることから、計画を継続することとした。以上のように若干の課題はあるものの、研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の中心的な研究対象であるウィリアム・アンダーソン『日本の絵画芸術(The Pictorial Arts of Japan)』(1886)は近年、復刻版が刊行されているが、末松謙澄による邦訳は既に古くなっており、第1編第1章には一部、省略がみられる。今年度はこれらの箇所と、本研究に重要と判断した箇所を中心に翻訳を進め、明治政府に不都合であったと思われる民族や統治、領土に関わる記述を確認するとともに、オリエンタリズムの眼差しの有無について検証する。 また、これまでの研究成果と課題を受け、〈タイプ概念 type concept〉に注目して美術史の〈基準作例〉と自然史の〈タイプ標本〉を手掛かりに、さらなる比較研究を進める。今年度の自然史の方法に関する研究によって命名法と目録の重要性を改めて認識したが、翻ってみるに、西洋美術に比べ日本美術は目録化が十分に行われているとは言い難い状況がある。今後は19世紀に形成された他の在外日本美術コレクションの目録化も視野に入れ、研究を推進したい。
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Causes of Carryover |
分担者を務める「近世狩野派を中心とした図様継承と絵画制作システムに関する研究」(研究代表者 田沢裕賀、基盤研究(A)、17H00908)の在外日本絵画調査で、19世紀に形成された日本絵画コレクションを所蔵するブレシア市サンタジュリア博物館とヴェネツィア東洋美術館の調査を企画担当し、今年度は本科研で旅費を支出する必要がなくなったため。 次年度は本科研で継続した調査を実施し、旅費および謝金として支出する予定である。
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