2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K18493
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
池澤 一郎 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70257228)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩田 秀行 跡見学園女子大学, 文学部, 教授 (50146198)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 研究会の定期的継続 / 三百四通の書簡を通読 / 草書、崩し字の解読能力の向上 / 研究資料の購入披露 / 研究成果の論文化 / 研究成果の公刊 / 研究資料の所蔵元からの出版許可 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究代表者池澤一郎と共同研究者岩田秀行氏、研究協力者田中善信氏の三人と、大学院生や外国人留学生が参加する、近世から近代にかけての草書やくずし字で書かれた書簡文を解読する研究会を月に三、四回の頻度で実施し、東京国立博物館所蔵の近世期の著名な学者文人の書簡三百四通を集成した「尺璧帖」全六巻の解読を一通り終えることが出来た。次年度以降は、完成した全書簡の釈文の校正を進めつつ、書簡に登場する人名、書名に関する注や書簡の書かれた年月日の考証を行い書き添える。また校正終了に前後して、所蔵元と研究成果の刊行について理解と協力を得るための交渉に入る。 本年度、従来翻刻のない書簡を如上の研究会で解読する過程で、参加者全員の草書、くずし字の書簡文解読能力の維持向上が認められ、殊に二十代の大学院生の能力は飛躍的に向上した。参加者の中には、その草書、くずし字の高い解読能力が研究会外部でも認められて、美術館に学藝員として奉職した者もいる。 研究代表者池澤一郎は、本研究会で、折に触れて、研究費で購入した近世から近代にかけての学者文人の書画や書簡等の資料を披露し、参加者全員で解読した。その成果を吸収して、論文「木下周南の選んだ大沼枕山の漢詩」(『斯文』131号、2017年9月刊)「漢詩を読む楽しみー『枕山詩鈔鈔 七言絶句』に即してー」(『日本文学ジャーナル』第四号、2017年12月刊)、「早稲田大学中央図書館蔵『芝蘭堂新元會圖』上層貼紙「磐水府君絶筆」について 附載 同図題画記、題画詩釈文訓読」(『早稲田大学中央図書館紀要』、2018年3月刊)、「明治六年十二月一日付大槻文彦宛大槻磐溪書簡について」(『近世文藝 研究と評論』、2018年6月刊行予定、印刷中)にまとめて公表している。共同研究者の岩田氏も同様で、近代初期の学者文人の書簡集たる長尾枕水編『名家手簡』を写真付きで近刊する準備を整えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
主たる研究対象である東京国立博物館所蔵の近世の学者文人の三〇四通の書簡集である「尺璧帖」全六巻の解読を当初の計画通り一通り終了し、研究成果出版公開に向けての全体の書簡文翻刻の第一稿を完成することが出来た。この研究対象分析のための研究会も滞りなく、月に三回から四回、定期的に研究代表者の所属機関で開催継続することができた。また参加者の書簡文読解能力の涵養という点では、参加者のひとりである大学院生が外部にその能力の高きを認められて、美術館に学藝員として奉職することが出来た。また「尺璧帖」以外にも、近世から近代にかけての書簡文や関係資料を購入し、その資料の調査研究を研究代表者や共同研究者が進めて、論文四本として、研究成果を公開したり、書簡集を写真付きで公開するための刊行準備を進めている。 「おおむね」とせざるを得なかったのは、本研究は書簡文解読の成果である翻刻文を原書簡の写真とともに公刊して、研究会参加者のみならず、学界や一般社会においても草書やくずし字の書簡解読に志を立てる方の役に立つことを大きな目標としているにも関わらず、「尺璧帖」の所蔵元である東京国立博物館が、当初数十万としていた研究成果公刊の際の写真掲載許可料を数百万と変更して提示して来たことによって、原書簡の写真を併載することが難しくなってきたことに拠る。本研究の意義を再度説いて所蔵元の理解を求めて行きたい。その際研究成果の公表が主眼なので、刊行物に研究代表者や共同研究者、研究協力者の名前を表記することを遠慮し、研究成果を公刊を条件に、所蔵元に移譲することも考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度では、本年度一通りの解読と翻刻文の第一稿を完成した、主たる研究対象である東京国立博物館所蔵「尺璧帖」を、再度研究会で扱って、第一稿で難読した箇所を再考したり、書簡中に登場する書名、人名などに注を施し、書簡の年次考証を進めて、研究成果刊行公開のための原稿を完成することを目標とする。その際に「尺璧帖」を所蔵する東京国立博物館に、刊行の際に原書簡の写真を併載するための許可料金を、本研究会の研究成果公開の社会的意義を理解して、本研究に授与された研究費の範囲内に抑えてもらうように粘り強く交渉を重ねる所存である。 一方、「尺璧帖」が写真とともに公刊されない場合も考えて、他の近世から近代にかけての書簡集を写真と翻刻文に注を添えた形で公刊するための、研究活動をも次年度以降は展開する。具体的には世田谷区立郷土資料館所蔵の増村朴斎来簡集「一人一簡」が、近代の著名な学者文人の書簡百二十通を集成する巻物としてあるが、これを全文解読して、写真とともに刊行したい。所蔵元の世田谷区立郷土資料館は本研究の意義を理解し、研究成果公開のための写真掲載許可料は無料とするという有難い申し出をしてくださった。「一人一簡」解読に際しては、草書、くずし字の高い解読能力を保持されている世田谷区立郷土資料館の学芸員である武田庸二郎氏に研究協力者として新たに本研究会に参加してもらう約束を取り付けている。 また共同研究者である岩田秀行氏は長尾枕水編『名家手簡』という近代初期の著名な学者文人の書簡集を模刻した版本を入手、これもまた研究代表者池澤と協力して全文の翻刻を書簡の写真ともに刊行することを次年度中に成し遂げるために、すでに書簡本文の翻刻を一通り終えていて、出版社とも交渉を進めている。
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Causes of Carryover |
主たる研究課題としている東京国立博物館所蔵の「尺璧帖」は、日本近世の著名な学者文人の書簡304通を集成したもので、本年度一通りの解読と翻刻文を作成し終えている。これを次年度は校正し、さらに人名・書名についての施注をし、作成年次の考証を書き添えて、研究成果公開のための出版の入稿原稿とする予定である。しかしながら、当初資料の所蔵元である東京国立博物館は出版に際しての原資料の写真掲載許可料を数十万円と提示していたのを、本年度尋ねたところ、数百万円が許可料として必要であると共同研究者に伝えて来た。許可料減額のための交渉を重ねてゆくが、写真掲載のためには少しでも研究費が増額されることが望ましく、ために次年度使用額があることが必須となっている。
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Research Products
(4 results)