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2018 Fiscal Year Research-status Report

Innovative technology development for conservation and exhibition of sinking ships

Research Project

Project/Area Number 17K18515
Research InstitutionNara University

Principal Investigator

今津 節生  奈良大学, 文学部, 教授 (50250379)

Project Period (FY) 2017-06-30 – 2020-03-31
Keywords木材と金属の複合遺物 / 硫黄・鉄・酸化 / トレハロース / 保存処理 / 硫化鉄 / 硫酸鉄
Outline of Annual Research Achievements

長崎県松浦市の鷹島海底遺跡では1990年代からPEG法、高級アルコール法、糖アルコール法、トレハロース法などの保存処理を実施してきたが、保存処理した一部の遺物に白い析出物の発生と強酸性化に伴うpH低下が観察された。木材と金属の複合遺物で発生するこの劣化現象は「硫黄問題」と呼ばれ、出土木材の保存における世界的な課題となっている。私達は鷹島海底遺跡から発見された木材と金属の複合遺物に関する劣化現象と保存処理後の経過を10年以上にわたって観察してきた。
その結果、糖アルコールやトレハロース法に「硫黄・鉄・酸化問題」の解決の糸口を見いだすことができた。スウェーデンのヴァーサ号博物館では2000年の夏から秋にかけて降った雨の影響で展示室の湿度が70%RHを超えた時に、船体内部に黄白色の析出物が発見された。この析出物は、調査の結果、鉄と硫黄と水分によって引き起こされることが判明した。海底での埋蔵期間中の還元雰囲気の中で鉄バクテリアが周囲の硫黄を集めて鉄の還元硫黄化合物である硫化鉄(Pyrite)を蓄積する。この硫化鉄が保存処理後に吸湿して酸化して硫酸鉄などの水和硫酸塩や硫酸を生成する。水和硫酸塩は体積膨張して木材細胞を破壊しながら黄色や白色の析出物となり木材の表面に染み出す。さらに酸化によって生成した硫酸は木材のpHを下げてセルロースの加水分解を引き起こす。さらに、出土木材の含浸強化に用いたPEGは鉄が触媒となって分解を促進する。PEGの分解によって生じた吸湿性の高い物質が水分を呼び、さらに水和硫酸塩や硫酸の生成を早める。
トレハロースで保存処理した木材と鉄の複合遺物は高湿度環境でも安定しており、硫化鉄のような還元硫黄化合物から硫酸鉄などの水和硫酸塩への酸化を防止する効果もある。今後、トレハロースはPEGで顕在化した「硫黄問題」を解決する方法として多方面からの研究が期待される。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

1: Research has progressed more than it was originally planned.

Reason

鷹島海底遺跡では1990年代からPEG法、高級アルコール法、糖アルコール(ラクチトールとトレハロースの混合)法、トレハロース法などによる保存処理を実施してきた。大型木製錨と錨に関連する遺物は60%RH(±5%)に維持された特別収蔵庫に保管されてきた、その他の遺物は一般収蔵庫に保管されてきた。海岸に近い松浦市立鷹島埋蔵文化財センターでは梅雨期には70%RHを超える高温多湿の環境に置かれる場合がある。
PEG法、高級アルコール法では体積膨張による白い析出物の噴出と強酸性化に伴うpH低下が観察された。鉄錆が浸透して黄白色に変色した箇所からはX線回折分析の結果、硫酸鉄および硫化鉄が検出された。これに対して、ラクチトールやトレハロースで保存処理した木材の色調や体積変化はなく、析出物の発生も見られずpH6の弱酸性を保っている。トレハロースで保存処理した木材からは硫化鉄のみが検出された。このように、PEG法などで発生した硫化鉄が保存処理後に吸湿・酸化して硫酸鉄などの水和硫酸塩や硫酸を生成する「硫黄問題」はトレハロース法では起こっていないことが判明した。

Strategy for Future Research Activity

「硫黄問題」は、保存処理後に発生する白い析出物の発生と強酸性化に伴う木材組織の破壊という深刻な問題となっており、欧米を中心に様々な解決方法が模索されている。しかし、この問題を根本的に解決する方法はまだ無く、ヴァーサ号ではアルカリ溶液を浸した湿布で酸性化した部分を中和する応急的な作業を実施している。また、鉄の酸化を抑制するために2004年に新しい空調システムを設置し、広大な展示室の環境を20℃、55%RHに制御している。オーストラリアのバタビア号でも鉄の酸化や吸湿を減らすために展示室を47%RHから57%RHの間で制御している。
このような現状に対して、ラクチトールやトレハロースで保存処理した木材の色調や体積変化はなく、析出物の発生も見られず弱酸性を保っている。トレハロースで保存処理した木材からは硫化鉄のみが検出された。このように、PEG法などで発生した硫化鉄が保存処理後に吸湿・酸化して硫酸鉄などの水和硫酸塩や硫酸を生成する「硫黄問題」はトレハロースでは起こっていない。トレハロースは世界的に問題となっている保存処理後の「硫黄問題」を解決する方法として期待される。今後は本研究の成果をまとめて、国際学会で発信すると共に、広く世界に共同研究を呼びかけたい。

Causes of Carryover

次年度に、国際学会の開催が予定されており、本研究の成果を発表する予定である。
2019年4月には、韓国水中文化財保存研究所が主催して国際シンポジウムを開催する。また、5月にはイギリスで水浸出土木材保存の国際会議(IICOM-CC WOAM: 国際博物館会議 保存部会 水浸考古遺物保存会議)が開催される。
以上のように、本研究の成果を国際学会で発表するために研究期間を延長した。

  • Research Products

    (7 results)

All 2018

All Journal Article (3 results) (of which Peer Reviewed: 2 results) Presentation (4 results)

  • [Journal Article] The pre-conservation issues in the conservation of the wrecked ships and remains of the Mongol fleet from 12812018

    • Author(s)
      Setsuo Imazu, Koji Ito, Aizawa & Andras Morgos
    • Journal Title

      WET ORGANIC ARCHAEOLOGICAL MATERIALS CONFERENCE (May 16th-21th, 2016, Chiostro del Maglio - Florence Italy),

      Volume: 1 Pages: 242-248

    • Peer Reviewed
  • [Journal Article] Resource saving by the help of an impregnation hybrid system based on solar thermal collectors aided by traditional electrical energy and by recycling of the trehalose impregnation solution in the long-term conservation of large waterlogged wooden finds2018

    • Author(s)
      Koji Ito, Hiroaki Fujita, Setsuo Imazu & Andras Morgos
    • Journal Title

      WET ORGANIC ARCHAEOLOGICAL MATERIALS CONFERENCE (May 16th-21th, 2016, Chiostro del Maglio - Florence Italy),

      Volume: 1 Pages: 311-314

    • Peer Reviewed
  • [Journal Article] Conservation study of organic excavated in Mongolia -Adaptation of trehalose method2018

    • Author(s)
      M.Oyuuntulga, Ito koji, Imazu Setsuo
    • Journal Title

      X International Scientific Conference, “Ancient Cultures of Mongolia, Baikal Siberia and Northern China

      Volume: 1 Pages: 169-171

  • [Presentation] タイ国パノム・スリン沈没船出土遺物の保存2018

    • Author(s)
      今津節生、ソピットパヤカーン、サネマハポール、伊藤幸司
    • Organizer
      日本文化財科学会第35回大会研究発表要旨集
  • [Presentation] トレハロース含浸法によるアジアの出土木材保存に向けた3つの取り組み2018

    • Author(s)
      今津節生
    • Organizer
      韓国文化財保存科学会
  • [Presentation] 水浸出土木材保存処理における含浸時間の短縮化2018

    • Author(s)
      立石翔大・今津節生
    • Organizer
      日本文化財科学会第35回大会
  • [Presentation] モンゴルで出土する有機遺物の保存に向けた研究2018

    • Author(s)
      伊藤幸司、藤田浩明、片多雅樹、小林 啓、稗田優生、メンドバザル・オユントルガ、今津節生
    • Organizer
      日本文化財科学会第35回大会

URL: 

Published: 2019-12-27  

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