2017 Fiscal Year Research-status Report
A study on ideology and practice of creative survivor over catastrophes
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17K18528
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松田 素二 京都大学, 文学研究科, 教授 (50173852)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古川 彰 関西学院大学, 社会学部, 教授 (90199422)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | 破局的状況 / 巨大地震 / ケニア / ネパール / 生活世界 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は破局的災厄の被害者への聞き取りを行った。破局的災厄経験した被害者は災厄によって生じた被害をどのようにして意味づけ乗り越えようとしてきたのかというのが共通する問いであった。この問いに対するそれぞれの「こたえ」について被害者のコミュニティの集合的記憶をもとにその生成過程を再構成していった。 対象として、松田は、原爆投下によって著しい被害を経験した朝鮮人の被爆者およびケニア社会が経験した2007-8 年の「選挙後暴力」による破滅的な暴力をとりあげた。本年度は前者の課題については、来日した韓国の被爆者への聞き取りとソウルでの資料集を行い、後者についてはナイロビと西ケニアでのフィールドワークを実施した。とくにもっとも暴力的で被害の大きかったナイロビの「スラム」地区において、どのような状況で誰による暴力が生起し、どのようにして人々が生を防衛していったかについて詳しく聞き取りを行った。選挙後暴力の時期に、焼き討ちや襲撃が頻発したカワングヮレ地区とキベラ地区を対象にして、どのようにして警察や敵対勢力からの暴力を回避し、無秩序状態のなかで相互に助け、防衛しあったりしたかについて聞き取りをした。 古川は、1995年に起きた「阪神淡路大震災」の被災者の経験に関する「語り」に注目してその語り口の分析を行う一方、2017年8月、2018年3月にそれぞれ一か月程度ネパールに滞在し、ネパールのカトマンズ盆地を襲った巨大地震によって、多くの犠牲者と家族や家屋財産を失った被災者を生みだしたパタン市のゴールデン寺院地区を対象にして、被害の実相と緊急避難時の生の防衛方法に関する調査を実施した。さらにゴールデン寺院に隣接するイラナニ・コミュニティのメンバーが激甚な被害のなかで基盤を解体されたコミュニティの再生のために生活共同の実践を組織し新たな「場(拠点)」を構築していく過程ついて聞き取りを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
松田、古川ともにとりわけ海外フィールドでの成果が著しい点がその理由である。 松田はケニアが2007-8年の大暴動・大混乱を招いた大統領選挙を迎えた2017年8月にケニア調査を実施し、暴力と衝突が顕著であった地区とそれが抑制された地区の双方を調査することができた。また前回の暴動と混乱時のナイロビスラム地区の秩序生成と秩序破壊の動きを実証的に考察した二本の英語論文を海外の出版社・ジャーナルから刊行し国際的な評価を得た。 古川はカトマンズ大地震直後から参与観察を継続しているパタン市のゴールデン寺院地区において自らも中心的に関与した地域コミュニティの拠点構築運動をさらに拡充させ、高齢者、女性の主体的な地域づくり、健康維持、宗教的協働活動などを精密に記録し参加者一人一人の意識についてもディープインタビューによって描き出すことに成功している。 松田、古川に共通しているのは、甚大な被害を受けた人々や共同体が、外部から支援ではなく被害を経験した当事者を中心にして様々な異質な思考、価値観、方法をつなぎ合わせ、張り合わせながらよりよい生を築きなおしていくメカニズムであり、そのメカニズムに通底する基盤を解明しようと試み顕著な成果をあげた
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、「破局的災厄経験した被害者は災厄によって生じた被害をどのようにして意味づけ乗り越えようとしてきたのか」について現地調査を進める。後半はその成果を整理し松田と古川が得た知見を共有し統合的なモデルを構築する。 松田は、ケニアにおいては、選挙後暴力期(2007-8年)にナイロビの「スラム社会」で生まれた自警団や防衛・扶助の創発的規範について考察し、2017年の選挙後暴力の危機における「スラム社会」の対応知と比較する。一方で韓国人の原爆被害者が、自らの自助組織をつくり自分たちの受難の歴史を編集するなか、日本国を相手に「理不尽な過去の仕打ち」の責任を取って闘ってきた国家賠償請求訴訟の展開とその影響力のひろがりについて分析する。 古川は、カトマンズ盆地のパタンのイラナニ・コミュニティで、大地震後に自生的に出 現した新しい「共同性」が、外部世界へと開放され他者により寛容な規範を生成している過程を考察する。具体的には古川自身がコミットして建設したコミュニティセンターとそこで再組織された(高齢女性たちの)社会的紐帯が、政治的、宗教的、民俗的な女性のエージェンシーを創造し支えてきた過程を分析する。同時に、阪神大震災後に出現した「震災コミュニティ」における「絆」とどこが共通(類似)しどこが異なっているのかについても分析する。
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Causes of Carryover |
データ保存用に外付けハードディスクの購入を計画していたが、パソコン内蔵ハードディスクで保存が可能であったため購入をしなかった。最終年にはすべての画像および聞き取りデータの保存用に購入予定である。
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Research Products
(8 results)