2019 Fiscal Year Research-status Report
Discipline by the Market and Discipline by the Ownership: Ownership Structure and Management Efficiency of Joint Stock Companies during Japan's Industrial Revolution
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17K18558
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中林 真幸 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (60302676)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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Keywords | 経営者のモラルハザード / 情報の非対称性 / 企業の所有構造 / 所有の規律 / 市場の規律 |
Outline of Annual Research Achievements |
資本市場が効率的であれば、経営の非効率的な企業は、それを改善する見通しを持った投資家に買収され、経営者を更迭されることによって経営の効率性を改善される。したがって、資本市場が効率的である場合、所有者(株主)と経営者が分離していることによる経営者のモラルハザードは抑止される。一方、資本市場が効率的ではない場合、資本市場の規律を通じた経営者のモラルハザードの抑止は難しいので、所有者が経営に関わることによってモラルハザードを抑止し、経営の効率性を高めることができる。 資本市場の非効率性に乗じて経営者のモラルハザードのうち、深刻なもののひとつが、財務レバレッジを上げて目先の株主資本利益率(ROE)を上げるという歪みである。資本市場が非効率的である場合に、所有と経営の分離が、レバレッジを歪めるモラルハザードを強めることは、投資家(潜在的な株主)にも分かっている。同時に、株主は、経営者が怠けないように、インセンティブを与えなければならない。ところが、経営者がリスク回避的である場合、経営者にリスクを負担させるインセンティブを課すには、それに応じて高い賞与をリスク・プレミアムとして支払わなければならない。それゆえ、投資家は、ROEがレバレッジの歪みによって引き上げられている可能性を知りつつ、役員賞与を節約するために、総資産利益率(ROA)ではなく、経営者が操作できる、それゆえに経営者に課すリスクの小さいROEを指標として経営者を評価することになる。 それゆえ、資本市場が効率的ではない場合、以下が予測される:(1)社長の持ち株比率はROAを引き上げる一方、ROEとは無関係である、(2)業績の悪い企業は社債レバレッジを上げてROEを上げようとする、(3)社長が株主である場合、ROA上昇に貢献する場合に社債レバレッジを引き上げる。1878-1910年の東京市場データにより、この予測を実証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記の結果を得る際に、1890-1899年に展開された、日本銀行による担保品付き手形割引の効果を検証する必要を認識した。担保品付き手形割引とは、日本銀行が指定した銘柄を担保とする約束手形を再割引するもので、日本銀行が指定銘柄を買い入れることに等しい。 2011年以降、現在(2020年)に至るまで、日本銀行が実施している上場投資信託(ETF)買い入れは、ETF組み入れ銘柄を日本銀行が買い入れるに等しく、その銘柄の価格形成に大きな影響を与える。1890-1899年の担保品付き手形割引においても、指定銘柄の価格形成と取引量が大きく影響を受けたこと、東京市場全体において、エクイティ・リスク・プレミアム(国債などの安全資産と株式投資利回りとのスプレッド)が顕著に低下したことは、私の過去の研究から明らかにされている。 エクイティ・リスク・リスク・プレミアムの低下そのものは、市場が日本銀行の非伝統的金融政策を織り込んで価格を形成したことを意味し、日本銀行の政策が市場の効率性を損ねたことを直ちに意味するものではない。その功罪を検討するには、当該期のエクイティ・リスク・プレミアムの決定要因を慎重に分解することが必要である。 この作業を行うために、特に期間1年の延長を申請し、認められた。すなわち、研究期間を終了できなかった理由は、新たな問いが見つかったことにあり、計画時の問いに答えられなかったことではない。
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Strategy for Future Research Activity |
上記進捗状況欄に述べた通り、日本銀行が非伝統的金融政策を発動した1890年以前と、発動した1890-1899年とを分けてエクイティ・リスク・プレミアムの決定要因を分解し、1890年以前と以後において決定要因に違いがあったか否かを調べる。仮に違いがあった場合、それが価格形成に対して持った意味を考察したい。
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Causes of Carryover |
上記進捗状況欄において述べた通り、当初計画していた成果を達成する際に、日本銀行の非伝統的な金融政策が東京市場の価格形成に及ぼした影響を精査する必要を強く覚え、特に1年の延期を申請し、認められた。 株式利回りと、国債等の安全資産の利回りとのスプレッドであるエクイティ・リスク・プレミアムの決定要因については、いくつかの理論的な仮説と、データによる実証研究が存在する。異なる仮説は必ずしも相互排他的ではなく、複数の要因が作用することもありうる。 したがって、本研究においては、既に本計画のために作成したデータを用いて、複数の要因の効果を調べ、どの要因がどの程度、エクイティ・リスク・プレミアムに作用していたかを解明したい。その上で、1890年代の非伝統的な金融政策が経済発展に対して持った含意を考察したい。
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