2022 Fiscal Year Annual Research Report
Collective Decision Making in Dynamic Models: Towards the Construction of Dynamic Stochastic Cooperative Game Theory
Project/Area Number |
17K18561
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
原 千秋 京都大学, 経済研究所, 教授 (90314468)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2023-03-31
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Keywords | 不確実性 / 動学的一貫性 / 曖昧さ / 効率的配分 / 異質性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は,協力ゲームなどの領域で培われた集団的意思決定の理論を,動学的マクロ経済学や数理ファイナンスの分析手法を使って,動学的枠組に拡張することであった.多分野横断的な研究課題なので,多くの分野の多くの研究者と接することで問題意識を共有し,動学的協力的ゲーム理論の礎を据えることを目指していた.しかし,新型コロナ感染症の流行拡大により,このような交流は不可能となった.
困難な環境ではあったが,本研究課題では以下の二つの成果を得た.第一に,新型コロナ感染症の流行拡大期のように,単に不確実性があるだけではなく,それを描写する確率分布が不明な状況には曖昧さがあるというが,そのような状況では,意思決定主体は,一般に考えられるよりも多種多様な確率分布を想定すべきであることを示した.特に新型コロナ感染症の場合,感染拡大初期には感染率が不明であったが,その後多種多様なPCR検査キットなどが広く一般に行き渡った結果,検査の感度が不明となった.当初は規制に消極的だった政府が,検査結果が明らかになるにつれ,隔離政策などを実行するようになるといった動学的一貫性を欠く行動を採らないようにようにするために,いずれの場合でも想定する感染率の幅を広めに取っておく必要があるという政策提言を与えた.
第二の成果は,曖昧さ回避的な意思決定者間の効率的消費配分ルールの特徴を明らかしたことである.さらに,この特徴付けに基づき,Hansen-Jagannathan Boundと呼ばれる,いわば一国経済全体が直面する不確実性を忌避する度合いを表す尺度が,景気循環とは逆向きに変動する傾向があることを示した.この傾向は,これまで多くの実証研究で立証されたが理論的裏付けを欠くアノマリーとされてきた.この成果はこのアノマリーに理論的基礎を与えるものである.
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