2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K18562
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大竹 文雄 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (50176913)
|
Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
|
Keywords | オキシトシン / 競争選好 / 利他性 / 労働市場 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、特に出産後の女性が多くさらされるオキシトシンが競争選好・利他性に与える影響について、医学分野との共同研究を通じて明らかにする。具体的には、ランダム化二重盲検によるオキシトシン点鼻薬の単回投与によって、経済実験における被験者の競争的環境の選択行動に変化が出るかどうかを検証した。オキシトシンは、中枢神経系における愛着形成や利他的行動と相関を持つことが知られている。したがって、競争相手に対する信頼、愛着、利他性などのオキシトシンと関わりの深い感情が競争参加への選好に影響を与えている可能性がある。そこで、本研究では、経済実験を通じて、オキシトシン投与が被験者の競争選好に与える影響のメカニズムを明らかにし、競争環境の選択を促す仕組みについて明らかにする。 競争選好を計測する経済実験は、Niederle and Vesterlund(2007) によって開発されたこの分野の標準的な手法を用いた。実験参加者に単純作業を課してその作業量に応じて金銭的報酬を支払った。その際、実験参加者が出来高払いの報酬か、他人と競争をして その結果によって大きく報酬が変動するトーナメント型の報酬か、どちらの報酬支払い制度で働くことを選択するかを計測するというものである。また、同時に選好研究で用いられた信頼ゲームも行った。オキシトシンを 92 人、プラセボを 92 人に投与し、被験者間で比較するデザインとした。経済実験は、オキシトシン投与の先行研究と同様、健常な成年男子のみを対象として行った。 オキシトシンの増加によって、共感性が高くシステム思考が低い人は競争を好まなくなることが明らかとなった。また、オキシトシン投与によって、信頼行動が増加することが本研究においても確認できた。特に、自閉症傾向が見られない人について、オキシトシン投与によって信頼行動が増加することを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初2017年度に予定していた実験をすべて終了し、実験参加者の共感性やシステム思考、自閉症傾向によってオキシトシンの投与による競争選好や信頼に対する影響が異なるという発見をした。また、唾液中のオキシトシン、コルチゾール、テストステロンを計測し、オキシトシン投与群と対照群で変化を確認した。さらに、研究成果をいくつかのセミナーで報告した。この結果をもとに、産婦人科の研究グループの協力を得て、2018年度には女性の実験参加者による実験を行うところまで進展した。
|
Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、2017年度に男性実験参加を対象にして行った実験と同様のものを、女性の実験参加者を対象にして行う。具体的には、標準的に用いられている競争選好と信頼度を計測する経済実験を行う。実験の手順は以下の通りである。実験参加者は匿名の2人のグループにランダムに分けられたのち、つぎのタスクを行う。(1)投与セッション:オキシトシンもしくはプラセボ点鼻薬を投与し30分間待機する。(2)歩合給報酬タスク。(3)トーナメント給報酬タスク。(4)報酬制度選択付きタスク(個人)。(5)報酬制度選択付きタスク(ペア)。(6)対人間の信頼ゲーム。(7)対コンピューターの信頼ゲーム。 報酬制度選択付きタスクにおける報酬制度の選択にオキシトシンの投与が影響するか否かを統計的な手法で検定する。また、信頼ゲームでの社会選好がオキシトシン投与によって影響されるかを検証する。さらに、利他性、互恵性などについてのアンケート調査を行う。 オキシトシンとプラセボの投与は、ランダム化二重盲検試験で行う。オキシトシンを100人、プラセボを100人に投与し、被験者間で比較するデザインとする。 オキシトシン投与セッションを含む経済実験は、オキシトシン投与の先行研究と同様、健常で妊娠していない成年女子のみを対象として行う。これは、オキシトシンには子宮収縮作用が認められるため、妊娠中の女性には流産のリスクがあることが理由である。このリスクに対処するために、産婦人科の医師のグループに研究に参加してもらう。
|
Research Products
(1 results)