2018 Fiscal Year Research-status Report
国際比較による「過剰消費される祖父母」を超えた世代間関係の可能性に関する実証研究
Project/Area Number |
17K18584
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
安藤 究 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 教授 (80269133)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 祖父母の過剰消費 / 祖父母性(grandparenthood) / 祖父母と孫の関係 / 祖父母性と福祉国家 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究目的1)の「成長した孫との有意味な関係を結んでいる祖父母の事例の国際比較調査」は、国内では札幌で、国外ではオランダで聞き取り調査をおこなった。札幌での調査は、20代前半から40代前半の、女性4人・男性2人のインフォーマントに対しておこなった。調査内容は成長した孫側からの世代間関係の認識であり、祖父母の「短期過剰消費」を示す典型的な事例が確認されるとともに、有意味な関係が長期に渡って継続した事例も調査結果として得られ、最終的な研究目的である「過剰消費される祖父母」問題の回避を考える1つの手がかりとなった。 オランダでの調査は、ワークシェアリングによる女性の就業率の上昇(=専業主婦の減少)が世代間関係にどのような影響を及ぼしているか、特に祖父母が子育てエージェントとしてどの程度利用されているかに焦点をあてて、祖父母世代2人・親世代9人に聞き取り調査をおこなった。世代関係に及ぼすオランダの制度的影響を検討する為にも、オランダ人以外のインフォーマントも多く得られるようつとめた。当該研究課題との関係で最も興味深い調査結果は、上述のような専業主婦の減少にもかかわらず、ワークシェアリングシステムと社会の表層下での保守的なジェンダー関係の存続が、子育て支援エージェントとしての祖父母の活用の程度を一定程度に押さえているということだった。 他に、北欧調査の為にコペンハーゲン大学図書館で資料収集をおこない、また7月にはトロントで、社会学ではもっとも規模の大きい大会で当該研究の成果の一部を発表した。研究目的2)の「国内の地方自治体における施策」に関しては、自治体が発行する育児支援エージェントとしてのガイドブックの内容の比較分析によって、独自性を有する自治体の背景要因に関する新たな分析課題を得た。他には、利用可能な可能性のある公開データを用いた分析に必要な技法の講習を受けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の計画は、比較的順調に進捗した。先行研究において強調されている北欧の特異性をにもとづき、当初は北欧のみを調査対象として計画したが、北欧のような高度な福祉国家ではないにもかかわらず、孫との関係における祖父母の態度・養育サポート行動では北欧諸国と同様なパターンを示すオランダで調査が出来たことは収穫であった。所謂「ポルダーモデル」「オランダモデル」として知られているワークシェアリングのシステム(実際は交渉メカニズムであるが)は、労働市場に対してだけでなく、保守的であった夫婦間のジェンダー関係にも影響を及ぼしたことは日本でよく知られているが、このシステムが、社会の表層の下に留まる伝統的な価値意識と相互作用しながら、子育て支援における「祖父母の過剰消費」を防ぐ作用を持っていたことは、大きな発見・成果であった。ただし、オランダにおけるこの効果は、実質的には女性(母親)のケアワークの増大をともなう可能性があるので、ポルダーモデルの結果を単純に日本の世代間関係のモデルとすることは出来ない。 7月のカナダでの社会学の世界大会での発表も、大きな収穫であった。発表した部会のchairは、ヨーロッパの祖父母・孫関係の国際比較調査の中堅世代の代表の1人であり、当該テーマにかかわる成長した孫と祖父母との関係に関しては、ヨーロッパでも一定の規模でのプロジェクト自体がないことが確認出来きた。それ故、共同研究の可能性を探って行くことにもなった。また、先の今年度の活動の箇所で述べたように、国内の調査でも、有意味な関係が長期に渡って継続した事例が得られて、最終的な考察のための重要なデータとなった。 以上のように、2018年度計画に関しては順調に研究を進めることができた。ただし、2017年度の体調不良による前年度の遅れを完全に取り戻すことは時間的に出来なかったので、表記のような全体評価とする。
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Strategy for Future Research Activity |
オランダに関しては、これまで述べたように、当初の計画時点では予想していなかった可能性が開けたため、祖父母側のインフォーマントを増やし、また青年期の孫のインフォーマントにも聞き取り調査を試みられるようにしていきたい。北欧の調査に関しては、交付申請時に考えていたのとは異なるコーディネーターにもアクセスできたので、当初計画に従って調査を進めていきたい。北欧の中では、当初計画に記したノルウェーと、昨年度に可能性として言及したデンマークでの聞き取り調査を実施していく予定である。 福祉国家の類型と祖父母による孫のケアとその長期的影響ということでは、2018年度調査の結果より、親族ネットワークが比較的強く、日本よりも子育てケアにおける公的サポートが少ない社会での調査も必要となることが示唆された。この点に関しては、経済成長の速度と段階がインフォーマルなサポートネットワークに及ぼす点や、追加調査ということでの調査の実現可能性(別のテーマで現地社会学者との共同研究の関係を築いていること)に鑑み、トルコでの調査も可能であれば行いたい。 当該研究課題の理論的視点としてはライフコース研究となるので、University of North Carolina at Chapel Hill校のライフコース研究所での資料収集と助言を得ることも試みたい。 また、昨年度と同様に、積極的に当該研究の成果の一部を海外の学会でも報告し、国際比較が重要となる当該研究の進展にフィードバックさせていきたい。
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Causes of Carryover |
2018年度の研究計画自体は順調に進展したものの「次年度使用額」が生じた理由は、2017年度に、交付申請時には予期していなかった当該研究課題の研究代表者の体調不良が発生し、予定していた海外での調査が出来なかったことによる。2017年度に体調不良で海外調査が出来なかった分を2018年度に加えて調査することは試みたが、それが十分には出来なかったために「次年度使用額」が生じたということである。この結果生じた次年度使用額は、「今後の研究の推進方策」で述べたような当初計画にあった海外での調査(ノルウェー・デンマーク・オランダ中心)や新たに可能性を検討しているイスラム圏(トルコ)での調査研究にかかわる旅費・通訳などの人件費・謝金、消耗品費、図書や機器、その他(会議費・複写費など)で使用する計画である。また、同じく「今後の研究の推進方策」に記したように、国際学会での発表、海外での研究機関等(University of North Carolina at Chapel Hillなど)での資料収集の為の旅費にも使用する予定である。
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Research Products
(2 results)