2019 Fiscal Year Research-status Report
国際比較による「過剰消費される祖父母」を超えた世代間関係の可能性に関する実証研究
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17K18584
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
安藤 究 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 教授 (80269133)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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Keywords | 祖父母の短期過剰消費 / 祖父母性(grandparenthood) / 祖父母と孫の関係 / 祖父母性と福祉国家の類型 / 国際比較 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、本研究課題で最も重要な計画の1つであった、ノルウェーの20歳前後の「成長した孫」の調査が、部分的にしろ可能となった。インフォーマントは、別プログラムで交流会を開催したフォルケホイスコーレと呼ばれるノルウェーの成人学校の学生である。交流会の後、2020年3月に本研究課題代表者がノルウェーを訪れて聞き取り調査を行うことを予定していたが、新型コロナウィルスの影響でノルウェーへの渡航が出来なくなったため、自由回答を中心とした調査票に、オンライン上で回答して頂いた。本課題のような探索的な課題にはinteractiveな聞き取り調査が望ましいものの、一度対面でのコミュニケーションをしていたためにオンライン上での自由回答を中心とした調査にも積極的な協力が得られ、一定の成果は得られたと思われる。 調査結果からは、孫の側からの回答においても、当初推測した以上に、成長した孫と祖父母との間に有意味な関係が見られた。祖父母が「短気過剰消費」されていないケースが少なからず存在する可能性が考えられ、福祉国家の類型が世代間関係に及ぼす影響が、先行研究で示されている幼少期の孫との間に対してだけでなく、長期に及ぶ可能性が示唆された。この知見は、最終的な研究目的である、日本の「短期過剰消費される祖父母」問題の回避を考える上で重要である。 8月のアメリカ社会学会への参加では、当該研究課題にも有益と思われる、”Secondary Data Sources for Research on Aging”の利用法に関する詳細な情報が得られた。 また、10月のベトナムでの学会発表では、近年アジアと西洋の比較において打ち出されてきているアジアの祖父母の単純なイメージに対して、日本の調査結果を示すことでその相対化が必要なことを示し、そうした観点からのアジアでの今後の共同研究の可能性を探ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は年度末までは順調に進捗しており、当研究課題初年度の体調不良による遅れを取り戻すことが出来るようなペースであった。 しかし、新型コロナウィルスの影響によって、2020年3月に予定していたノルウェーとデンマークでの聞き取り調査が出来なかったため、「やや遅れている」とした。 全くの想定外の新型コロナウィルスの影響で2020年3月の調査が出来なかったにもかかわらず「遅れている」としなかっのは、研究実績の概要でも述べたように、ノルウェーでの聞き取り調査を予定していたフォルケホイスコーレのインフォーマントとは、先方の学校のプログラムで来日された際に交流会を開催して対面的なコミュニケーションは確立していたため、オンライン上での調査には協力してもらうことができたからである。ノルウェーへの渡航が可能となった際には、現地でさらに追加的に聞き取り調査を行える可能性も残り、さらに今回のインフォーマントの祖父母を紹介してもらい聞き取り調査が行える可能性も開けた。 また、今回とは別の新たなインフォーマント(2020年夏以降の新入生)を対象とした調査に関しても、先方の学校の理解のもとで協力が得られることになっており、現地に赴き対面的な聞き取り調査が可能となった際にはスムースにそれを進められる準備が整ったことも、進捗状況を「遅れている」としなかった理由となる。 同様に、デンマークでの調査について、家族社会学領域の調査のアテンド経験がある通訳兼コーディネーターに協力をお願い出来る見通しがたち、新型コロナウィルスの影響で2020年3月に実施出来なかった調査を、渡航可能となった際に実査を行うだけの状態とできたのもこの評価の理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
北欧の調査に関しては、ノルウェーとデンマークで実施する。すでに述べたように、ノルウェーに関しては、交流が確立したフォルケホイスコーレの教員スタッフの協力の下に現地調査を行う。具体的には、「成長した孫」に関しては、当該成人学校の新年度入学生が調査対象者の中心となる。また、今年度オンライン調査で協力を得たインフォーマントの中で、数人さらに協力が得られる可能性があり、対面でのさらに掘り下げた調査を計画している。他方、「成長した孫を持つ祖父母」については、フォルケホイスコーレの新年度入学生並びに今年度回答頂いたインフォーマントの紹介によって聞き取り調査を行う予定である。 先行研究で、同じ北欧でも「祖父母であること」においてはノルウェーとは異なるスタイルが報告されているデンマークに関しては、社会学の調査にアテンド経験がある通訳兼コーディネーターを今年度紹介してもらうことが出来たので、本来であれば2020年3月に予定していた調査を実施する。調査は、ノルウェーとの移動の時間を考えて、コペンハーゲンで行う予定である。 日本の世代間関係に関する施策のヒントということでは、昨年度おこなったオランダの調査を継続・発展させることにも、現実的な応用可能性という点で非常に重要な意味があると考える。2018年度の調査ではオランダ在住の複数のエスニシティからなるインフォーマントであったが、今年度はオランダ人夫婦の祖父母のインフォーマントを中心とした調査を予定している。 6月にチェコで行われる学会大会で発表が採択されていたが、新型コロナウィルスの影響で2021年1月に延期となった。その時期に渡航が可能であれば、これまでに得られた知見を発表しコメント頂き、今後の展開に役立てたい。以上の計画はすでに実査を待つだけの段階であり、新型コロナウィルスの影響のもとでの渡航制限が解除され次第、実施する予定である。
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Causes of Carryover |
「次年度使用額」が生じた理由は2つある。1つは、新型コロナウィルスの影響で、2020年2月の国内での調査と、3月のノルウェー・デンマークでの調査が実施できなかったことである。もう1つは、本研究課題採択の初年度である2017年度に、交付申請時には予期していなかった当該研究課題の研究代表者の体調不良が発生し、予定していた海外での調査が出来なかったことによる。初年度の体調不良で実施出来なかった海外調査は、2018年度・2019年度の当初予定に加える形で調査を試みて、2019年度には一部を除いてほぼ当初予定に追いつくことが可能となる見込みが得られた。しかし、先に述べたように、そこに新型コロナウィルス問題が発生し、その影響を受けてリカバリー部分の実査が叶わなかった。 このような理由で生じた次年度使用額は、まず、「今後の研究の推進方策」で述べた海外での調査(ノルウェー・デンマーク・オランダ中心)にかかわる旅費、また通訳などの人件費・謝金で使用する。また、海外での学会発表に必要な旅費にも使用する。さらに、英文での論文投稿に際してのproof readingの謝金、消耗品費、図書や機器、その他(会議費・複写費など)で使用する計画である。 図書や複写等で発生する経費は今年度全般にわたっての使用となると思われるが、海外調査や海外での学会発表は渡航制限が解除されてからの使用となる。
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Research Products
(2 results)