2019 Fiscal Year Research-status Report
The Development of a New Model of Relating to People with Dementia
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17K18596
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
翁 和美 大谷大学, 文学部, 研究員 (10780421)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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Keywords | 日常生活世界 / 開放性を担保した「相互了解世界アプローチ」 / 施設看護・介護 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、同時代の異なる社会における酷似する介護実践の意味づけを比較することで従来の介護論から「相互了解世界アプローチ」(以後、「相互了解」)へと認知症患者に対する介護モデルを刷新する道筋を示すことを目的としている。「相互了解」が正当に評価されていないA介護施設(仮名)と高く評価されているB介護施設(仮名)とそれらがある社会を比較対象としている。いずれの社会でも、介護は、家族制度上の体制を理念型として組織化されている。 これまでの調査から、「相互了解」の正当な評価を阻む主因について以下の仮説を立てた。外部からのアクセスが常にあり、患者の社交圏が重層する「相互了解」の究極の形では、患者の社会的帰属が不明瞭になる。それは、患者の、社会的帰属の危機を最小化する(がゆえに、暴言や徘徊が著しく減少するという患者の容態につながっていると想定される)一方で、家族制度上の体制を理念型とする現行の介護では、家族と培った歴史とそれに基づく関係との間で緊張を生じさせる。そのため、家族も看護・介護従事者も、後ろめたさを回避できず、成果を正当に評価できない、という仮説を立てた。そこで、その仮説を立証しつつ、なおもって「相互了解」の利点を明確にすべく、家族が性とセクシュアリティの対象になり感情のしこりを生じさせた場合でも、看護・介護従事者が性とセクシュアリティの対象になった場合でも、「相互了解」ならば、看護・介護従事者に、そうしたしこりを解消させるオプションが生まれることを論文で明らかにした。この論文は、2020年の冬に出版される予定である。 一方、先の調査からは、実践の継承という本研究の目的と大きく関わる新たな課題も見えてきた。そこで、2020年春から、A介護施設がある社会で、「相互了解」の前提である医療と日常生活世界を接合する取り組みを個人で始めた介護・看護従事者の活動を追う補足的調査を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
COVID-19の影響により、看護・介護施設やそれらがある地域に赴くことができなくなった。本研究は、参与観察を手法としており、進捗状況に著しい支障が起きている。
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Strategy for Future Research Activity |
B介護施設におけるプライベートとパブリックの概念とその関係性について着目する研究を進めたいが、B介護施設がある社会におけるCOVID-19の影響は深刻である。そこで、2020年春から始めた、医療と日常生活世界を接合する取り組みを個人で始めた介護・看護従事者の活動を追う補足的調査とこれまで集めたデータの整理とまとめを行ないながら、B介護施設とB介護施設がある社会での調査を模索する。
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響で、参与観察実施に著しい支障が起こった。引き続き、B介護施設とB介護施設がある社会での調査を模索したいが、とりわけB介護施設での調査の見込みは、COVID-19の影響が深刻であるため、極めて薄い。そこで、2020年春から始めた、A介護施設がある社会で、医療と日常生活世界を接合する取り組みを個人で始めた介護・看護従事者の活動を追う補足的調査とこれまで集めたデータの整理とまとめを行なう。前者に関しては、2020年8月以降、月1回の頻度で参与観察を行なう。1回につき旅費は約20万円を見込んでおり、少なくとも8回実施することにより合計約160万円になる見込みである。調査地の特性として電子機器が傷みやすいため、1台10万円前後のデジカメを2台購入する。後者に関しては、2020年8月以降、月2回の頻度で、補充のための、一次資料の収集を行なう。1回につき旅費とコピー代を含めて約7万円を見込んでおり、少なくとも15回実施することにより合計約105万円になる見込みである。なお、COVID-19の影響で調査が十分に実施できない場合には、認知症患者に関する言説研究の一部として収集済みの画像データをビデオテープからDVDに移動させる作業を委託するのに使用する。150数点あり、それらを委託する費用としては1点約1万円を見込んでおり、合計150万円になる見込みである。
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