2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K18695
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
横澤 一彦 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (20311649)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 色嗜好 / 実験心理学 / 美感 / 統合的認知 / 物体嗜好 |
Outline of Annual Research Achievements |
文脈情報が色嗜好に与える影響を調べるため、米国で使われている色という意味での「米国色」と、日本で古来使われている色という意味での「伝統色」のそれぞれを文脈情報として用い、何も文脈情報を与えないときの色嗜好をベースラインとして、色嗜好の変化を調べた。米国色として色を見た時には32色中9色の、日本伝統色として色を見た時には32色中7色の嗜好度が有意に変化した。このことから「米国色」「日本伝統色」という文脈情報が、色の嗜好度を変化させることが確認できた。また、米国色/伝統色らしいと感じられる色ほど米国色/伝統色として見た時に色嗜好が上昇し、逆に米国色/伝統色らしくないと感じられる色ほど色嗜好が低下するという対応関係が見られた。文脈情報を与えた時の色嗜好の変化は、色嗜好が色から連想されるさまざまな事物の好ましさと連想強度の積和平均に基づくという生態学的誘発性理論の枠組みの中で解釈可能なものであった。さらに、ドイツ人を対象として、色から日本文化の事物を想像させた時に個人の色嗜好がどのように変化するかを調べた。ドイツ人参加者はいずれも日本のことは短期の旅行や各メディアを通じてのみ知っている程度だったが、そのような日本の知識でも色と結びつくことで色嗜好を変化させた。色嗜好の変化は、色から日本の伝統的な風景などを想像し、日本の伝統物に典型的な色の嗜好を上げたり、元々持っていた色と事物の連想が抑制され、嫌いな事物との連想が抑制されたことで嗜好度が上昇したと推測される。いずれの理由も、異文化の想像が個人の色と事物の連想を変化させ、色嗜好を動的に変化させるという生態学的誘発性理論の予測を支持するものであった。監修を担当している学術書のシリーズにおいて、「美感ー感と知の統合ー」(2018,勁草書房)を上梓し、その中で色嗜好研究を中心に紹介する章の執筆を担当した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
色嗜好への文化の影響について、国内での実験研究にとどまらず、ドイツのチュービンゲン大学との共同研究が実現したことで新たな展開があった。さらに、関連研究としてチュービンゲン大学が保有する広色域が呈示可能な量子ドットディスプレイを用いて、自然画像の彩度を一般的な色域(Rec 709)から広色域(Rec 2020)のみで呈示可能なレベルまで変化させ、最も好ましいと感じられる画像の彩度、および好悪や強弱など主観的印象の変化との関係を調べ、主観的印象は画像彩度が上がっても下がらないことを確認した。広色域ディスプレイでは画像の彩度はその印象にポジティブな効果を与えることが多いことが分かった。 いずれの研究も、国内外での研究発表を行い、国際的な評価を受けたが、学術論文化が課題である。刊行した「美感ー感と知の統合ー」の中で色嗜好研究を中心に紹介する章の執筆を担当したことは、これまでの研究の位置づけ、今後の研究展開にとっても有益であった。
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Strategy for Future Research Activity |
配色嗜好について、物体と抽象的概念の嗜好度評定課題、すなわち配色からの連想課題で得られた物体や抽象的概念がどれだけ好まれるかなどを調べることで、日本人の配色嗜好を定量的に明らかにする。さらに、単色嗜好や配色嗜好に関する統合的な説明モデルを提唱する。その要素として,物体や抽象的概念の寄与度が、日本文化における美感の基礎指標を形成していることを明らかにする。 計画最終年度となるので、すでに国内外の学会などで研究発表している、日本の伝統色としての色嗜好など文脈の影響や、日本と比較し、ドイツにおける色嗜好と日本文化の影響、さらに広色域ディスプレイにおける色嗜好、特に彩度の影響について、学術論文化を進める。
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Causes of Carryover |
長時間拘束する実験実施を予定していたが、実験計画の工夫により、短時間のボランティアでの実験実施となり、主に人件費・謝金において差額が生じた。今後、配色に関する実験などを実施する際には、長時間の拘束が必要な大規模実験を計画しており、その際に有効活用する計画である。
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Research Products
(7 results)