2018 Fiscal Year Research-status Report
Evolutionary origins of music: A comparative cognitive study of apes
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17K18699
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
服部 裕子 京都大学, 霊長類研究所, 助教 (60621670)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 音楽性 / チンパンジー / 比較認知科学 / リズム同調 / 聴覚認知 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、チンパンジーが聴覚刺激を知覚した際に注意をむける音域、および運動に影響をおよぼす音域について実験的に検討した。 前者については、チンパンジーが他個体の音声を知覚する際に、特にどの音域を手がかりにしているのかに焦点をあてて実験を行った。ヒトは音声コミュニケーションの際、主に2kHzあたりの音が重要な役割を果たすことが知られており、注意もその範囲の音に向けられることがわかっている。その一方で、チンパンジーは発声の音域の幅がヒトより広く、例えばパントフートでは高音域(8kHz)が個体の状態を認識する際に用いられる事が示唆されている。そこで、4個体のチンパンジーと9人のヒト被験者を対象に、まず、左右のスピーカーの一方からチンパンジーの音声を提示し、同じ方向のボタンを押すことを学習させた。その後、一方のスピーカーからはチンパンジーの音声、他方のスピーカーからは純音を同時に提示し、2つの音を弁別してチンパンジーの音声側のボタンを押すように訓練した。テスト試行では、純音の周波数を変化させることで、クロスオーバー周波数を推定し、他個体の音声を純音と識別する際にどの周波数帯域を主に用いているのか調べた。その結果、ヒトは先行研究と同様に2kHz前後の周波数帯域の音に依存していたのに対して、チンパンジーは5kHz周辺の音に依存していたことがわかった。 後者については、チンパンジー3個体を対象に、プレイバック実験を行い、提示する音の違いが誘発するリズム運動にどの程度影響を与えるのか調べた。刺激音は、130Hz-2kHzまでの純音、ホワイトノイズおよび音楽で用いられるビート音(エイトビート)を提示した。まだすべての試行が完了してない段階だが、低周波数を含む音刺激が動きに強く影響を及ぼしている傾向が見られている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の実験結果から、チンパンジーが社会的な状況で注意をはらう音声の周波数帯域、および運動に影響をおよぼす周波数帯域が明らかになった。こうした音の要素を考慮にいれつつ、本年度効果的に感情や動きに影響をあたえる音刺激を作成できる見通しである。また、生理指標として用いる唾液についても、一昨年度に既に予備的実験を終えており、可能な採取方法やサンプルを用いたホルモン分析方法等は、確認ずみである。こうした点を考慮し、現在の進捗状況は概ね順調であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方法については、まず、昨年度の実験から得た結果をもとに、チンパンジーの感情や動きに影響を与える聴覚刺激を作成する。感情については、主に5kHz以上の高音域を対象に、運動については130Hz-500Hz の低音域に焦点をあて、これまでの音声コミュニケーションの研究も参考にしながら、効果的に感情や運動に働きかける聴覚刺激の要素特定をさらに行う。その後、それらの要素が最大になるような人工的な聴覚刺激を作成し、プレイバック実験を行うことで、聴覚刺激に対する行動反応および生理反応を測定する。行動反応は、ビデオカメラを用いて高サンプリングレート(120fps)で録画し、後に、どういった動きが生成されたかだけではなく、各運動の周波数も分析する。生理指標については、プレイバック実験前、実験直後を対象に医療用スワブを用いて採取し、後にホルモン分析を行うことで、その生理反応の変化を測定する。特に実験直後については、5分間隔で30分程度にわたって見られる変化を調べる。予測される問題点およびその解決策としては、現在、チンパンジーについては次世代繁殖のため、定期的に排卵するメス個体があり、周りの個体(特にオス個体)はそうした個体からの影響により、生理反応が変化することが考えられる。そのため、生理反応の分析および評価の際には、そうした社会的状況を考慮にいれつつ、実験外の内分泌反応も平衡して分析することで、実験による生理反応の評価を行う予定である。
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Causes of Carryover |
英語論文発表用に、校閲費として取り置いていたが、論文の完成が次年度に持ち越したため、次年度使用額が発生した
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